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第14話「明日も明後日も」*樹

  「――――……オレが、一番近くじゃ、嫌か?」  そう言われて、ただ見つめ返すしかできなくて。  しばらく何も言えずにいたけれど。  答えは――――……決まっていた。 「……嫌じゃないよ」  そう言うと、蓮がふ、と瞳を優しくした。 「嫌なわけ、ないよ。 オレ、ずっと、そう言ってるじゃん」 「――――……」 「だけど……今の事じゃなくて――――……」 「――――……今の、ことだけで、いいよ」 「え?」 「――――……先のことなんか、その時、考えれば、いいだろ」  ――――……そう、なんだけど……。  だけど――――……。 何とも言えずに考えていると、蓮が先に、口を開いた。 「オレ、多分……多分ていうか――――……絶対」 「……?」 「……樹と離れたいとは、ならない気が、する」  ――――……それは、オレも、だけど……。 「樹」  大事に、いつも呼ばれてる気がして。  ……蓮に呼ばれる、自分の名前が、なんだか、すごく好き。  だったり、する。 「――――……キスしても、いい?」 「――――……」  初めて。  そんな風に、聞かれた。  今まで何度も、触れてきたのに。  さっき、キスとかしないほうが、良いかもって。  オレが、言ったからかも、しれない。  ――――……さっき、確かに、そう思って言ったのに。  しないほうがいいって、確かに思ったのに。 「――――……うん」  結局、拒否する事なんか、出来なくて。  初めて。明確な「了解」をした。  抵抗しなかった時点で、受け入れてたのは分かっていただろうけど。  ちゃんと、承諾したのも、初めて。  ちゅ、と、優しくキスされる。  すぐ、離れて。 また、重なる。  キスが離れて――――……そのまま、抱きしめられた。 「……樹――――……」  今までで一番、近くで。  耳元で、囁かれて。 「……っ」  一瞬で、顔が赤くなる。  鼓動が、速くなって。なんか、胸が、痛い。 「――――……先のことは……言えないけど」 「…………」 「――――……オレ、今、毎日ずっと樹と居たいから」 「――――……」 「――――……それが、このままずっと続くんだろうって、思ってる……」「――――……」  ……蓮。  ――――……ああ、なんか、蓮って。  ――――…………好き、だなあ。オレ。  見えない先とかじゃなくて。  今一緒に居たい気持ちが、ずっと続いてけば良いって。  ……すごく、幸せなことな気がする。 「――――……それなら、オレも、おんなじ……」  ぎゅう、と抱き締められて、どうしていいか分からないで下げていた手を、蓮の背中に、そっと回した。 「……毎日、蓮と居れて、楽しいって思ってるよ。多分、明日もそうだし。明後日もそうだし」 「――――……」  背中にあった手が、後頭部にうつって、上向かされて。  すぐに、唇が重なってきた。  少しいつもよりも――――……重なり方が、深くて。  薄く目を開けたら、蓮の顔が見えて。  どく、と胸が弾み出す。  キスしてるのが、蓮だって。  ――――……オレは、蓮と、キスしてるんだなって、確認してしまって。  鼓動が早すぎて――――……。  さっきの罰ゲームの時みたいに、舌は、絡んではこなくて。  ただ、いつもより深く重なった、いつもより長い、キス。 「――――……れん……」  思わず、名を呼んだら。  蓮が、ぱち、と目を開いて。目が合った瞬間、ふ、と笑われて。  唇が離れて。 また、ぎゅ、と抱き締められた。 「――――……樹……」 「ん?」 「……唇、すげー甘い」  クスクス笑われて。  あ、ケーキ。と唇を押さえると。  そっと、抱き締めていた腕が解かれて、ぽんぽん、と頭をたたかれた。 「――――……コーヒー淹れ直す? 冷めちゃったよな」  そう、蓮が言ってくれたので。  オレは、うん、と頷いて、笑顔になった。

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