15 / 65

第15話「一緒に」*樹

 蓮が淹れ直してくれたコーヒーを飲んで。  さっきの会話を、ぼー、と思い出す。  ずっと、続く。  ……って。  そのずっとって……いつまでの事だと思ってるんだろう。  大学、出るまで?  ……その後、も?  うーん。 分かんない、なあ。  でも、今の気持ちがずっと続いていく未来なら。  ……大学とか関係なく、ずっと、なんだろうけど――――……。 「…蓮ってさ」 「ん?」 「結婚て、何歳位にしたい?」 「――――……」  蓮が、オレを見て、しばし無言。  え、何。この沈黙は。  オレも何も言えなくなり。  相当な沈黙の後、蓮は、ため息とともに。 「――――……オレ、そんなにはっきりした結婚願望、無い」 「……あ、そう、なの?」  何だか、ほっとして。  ……ほっとするって、おかしいのだけど。  ……でもなあ。  一番、同居できなくなる原因って。  恋人とか。結婚とか。きっと、そういうのだと思うから……。 「――――……黙ってたと思ったら、その質問って……」  蓮が、急に、ぷっと笑い出した。 「樹、何考えてたんだよ?」 「――――……んーと……」 「ん?」 「――――……結婚とかが、一番離れる原因ななあと思ったから、ちょっと聞いてみた」 「――――……結婚、ね」  今度は蓮がそう呟いたまま、何も言わなくなってしまった。 「――――……樹は、どうなんだよ」 「んー?……蓮より、絶対オレの方が、無いと思わない? 考えた事も、なかったけど……」 「ふうん。そっか」  2人とも、なんだか沈黙のままコーヒーをすする。 「……明日も学校なんだよなー」 「ん。寝る?」 「……蓮は?」 「樹が寝るなら、オレも寝る」 「――――……じゃ寝よっか」  コーヒーを飲み干して、二人で一緒に片づけて。  寝る準備やら、明日の用意やら色々した後。  リビングにいた蓮に、「おやすみ、蓮」と声をかけると。  振り返った蓮に、「樹」と呼ばれた。 「ん?」  蓮の言葉を待ってると。 数秒の沈黙の後。 「一緒に寝ない?」 「え?」  びっくりして。  聞き返すと。 「……嫌じゃなかったら――――…… 一緒に、寝ないか?」 「…………せ、まくない?」 「……樹がいやじゃなければ、いい」 「――――……んー……寝てもいいけど……」 「じゃ、枕もってこいよ」 「あ、うん」  自分の部屋に戻り。  複雑な気持ちで、枕を抱える。  えーと……。  一緒に、寝るの?  別に、嫌ではないけど……。  ――――……絶対狭いから、くっついちゃうよな……。  それも嫌な訳じゃないけど……。 「蓮……?」  枕を持って、蓮の部屋をのぞき込むと、蓮はもうベッドに入ってて。  壁側の半分が空いていた。 「枕貸して」  言われて渡すと、ふたつ並べて置かれる。 「入れよ」 「……うん」  蓮の足元の方からベッドに乗って、壁側の半分に横になる。 「電気消すよ。いつもまっくらにしてる?」 「うん」  蓮がリモコンで電気を消す。  カーテンの隙間から、月あかりが入ってきていて。  顔は見えた。 「おやすみ、樹」 「うん。 おやすみ」  横になって、布団を肩まであげる。  ――――……なんか変な感じ。  別に隣に寝ても、話すわけでもなく、すぐ、おやすみ、なんて。  話した方がいいのかな。   でも蓮、おやすみって言ったしなあ。  しばらく無言で息を殺していると。  すー、と、蓮の寝息が聞こえてくる。  ぎし、と小さくベッドを軋ませて。少しだけ起き上がって。  蓮を見つめた。 「――――……」  かわいーなー……蓮。  寝つき、いいんだなあ。  すっごく、スヤスヤ寝てる。  ――――……なんだかな。  一緒に寝る時がくるとは――――……思わなかった。  蓮のベッドは、オレのベッドより少し大きいみたいで、思っていたよりは狭くなくて。別に密着する訳じゃなかった。  寝顔。  こんなふうに見る時がくるなんて。  不思議。  ――――……寝てても、カッコイイんだなあ、蓮。  くす、と笑ってしまう。 「……」  寝る時まで一緒ってなると――――……。  トイレと風呂以外のすべての時間が一緒、のような……。  そんな風に思うと、ちょっと可笑しい。  あ、でも、これって、今日だけ、かな?  どうなんだろ。  一緒に居る居ないとか、あんな話ばっかりしてたから、  一緒に眠りたくなっちゃったのかな。  ――――…… 蓮……。  そーと、その頬にぷに、と触れてみた。  なんか、寝てると、無防備で、可愛い……。  ふ、と笑んで。  指を離すと、もう一度枕に頭をのせて横になった。  蓮の横顔をなんとなく眺めながら。  いつしか、眠りに、おちていた。

ともだちにシェアしよう!