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第18話「珍しい」*蓮
樹と、ゲームでキスして数日。
やっと、大学で頻繁に絡まれる事が無くなってきた。
それでも、まだ、たまに会った奴に。
「樹とキスしたんだって?」
なんて、言われる事もまだある。
「――――……罰ゲームでな」
そう答えると大体終わる。
ただ、今回は少し違った。
「他の奴だと嫌だけどさ。 樹なら良くない?」
「……は?」
「だって、あいつ、すげえ顔キレイじゃん?」
「――――……」
「あいつならキスしても嫌ではないかなーって、さっきも皆で言ってたんだけどさー」
「――――……何言ってんだよ」
「って……そう、思わねえ……?」
蓮の苛ついた空気が伝わったのか。少したじろぎながらそう言うのを、一瞥。
「そういうの言うの、やめろよ」
◇ ◇ ◇ ◇
「……なんか、蓮、機嫌わるい?」
あの後、トイレで離れてた樹と合流して。
ほんの数秒後、何も話してないのに、そう言われた。
「……樹、鋭いな……」
「いや、だって、顔が険しすぎ……」
樹の苦笑い。
「オレがトイレ行ってる間に何があったの?」
「――――……いや、なんか……」
「うん?」
「――――……樹の顔がさ……」
「ん」
「……綺麗だからキスが嫌じゃなかったろ、とか。 樹なら良くないかとか。
なんかすごい、むかついて」
「……そんな事言われたんだ……」
んー、と樹は眉をひそめたけれど。
「……そんな事言ったらさー」
「ん?」
「……蓮にキスしてもらっていいなあ、と思っている女子がいっぱい居そう」
「――――……んなこと言われた?」
「うん、そんな噂は聞いた」
「――――……」
「……皆、好きな事言ってそうだよね」
「……だな」
「……いいよ。気にしないでいこ。もうだいぶ言われる事も減ったし。来週になったらもういわれないんじゃないかな」
樹がクスクス笑いながら言うので、そうだな、と頷く。
「あ、そうだ、蓮。 今週末って、用事ある?」
「ん? 特にない」
「さっきさ、森田とか佐藤に会ってさ」
「ん」
「キャンプに行くんだって」
「キャンプ?」
「なんか、何も用意しないで行けるキャンプがあるみたいで。夏休みはもういっぱいなんだけど、今なら予約取れるんだって。他にも何人か呼ぶって言ってた」
「ふーん……」
「テントじゃなくてログハウスに泊まるって。 近くに温泉施設があるのと、バーベキューとかも手ぶらでできるって言ってた」
「へえ。 面白そうだな」
「うん。蓮、行く?」
「樹、行きたいか?」
「うん。じゃあ……行くって連絡する?」
「ん。――――……でもなんか……お前、皆で泊りとか、好き?」
「え。 あー、うん。皆でっていうのはあんまりないけど、ログハウスとか泊まったこと、ないし」
「行ってみたいのか?」
「うん」
ふわ、と笑う樹に、そっか、と蓮も頷いた。
「じゃあ行こうぜ。土日で行くって?」
「金の夕方から行くとか言ってた。2泊したいみたい」
「分かった」
「じゃあ詳しいこと、教えて貰う」
スマホを取り出して、連絡をしようとしている樹を見ていたけれど。
「あ。……オレがとろっか、連絡」
なんとなく、樹がそういう連絡あんまりとらないのを思い出して、そう聞くと。
「あー……うん。いい?」
「いいよ。 森田でいいの?」
「うん。ありがと、蓮」
大勢で遊ぶの、オレは昔から好きだけど。
多分、樹は、あんまり好きじゃない……と思ってる。
少人数の友達と、ゆっくりペースで笑ってるのが、樹は好きなんだと思ってるし、多分、実際そうなんだと思う。
「……何人来るって?」
「うーん……? わかんない。 さっき居たのは、森田と佐藤で…… あとは、何人か誘うって聞いただけ」
「そっか。 ……樹、あんまり大勢じゃないほうがいい?」
「え。 ううん、いいよ。たまには大勢も楽しいと思うし」
「……ほんとに?」
「うん。 蓮、居るし」
「……ん、分かった」
そっか、オレが樹の近くに居ればいいんだ。
……なんて思って。
森田に、「樹とオレ、キャンプ行きたいから詳細教えて」と、入れた。
なんとなく。
ほんとに、樹、珍しいなあ。と、思いながら。
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