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第19話「憂鬱」*樹

「おやすみ樹」 「うん。おやすみ」  結局あれから毎日、蓮のベッドで眠る事になってしまった。  数日続けてしまったら今度は自分のベッドに戻るのも、また何だか理由が必要だと思ってしまう位で。 「――――……」  電気が消されると思いきや、ギシ、とベッドが軋んで。  目を開けると。  蓮が、近くにいて。  軽いキスをされる。  不意にされるキスに、慣れてはいたけれど……。  あのディープキスのせいで、承諾した上でのキスになってしまって。  ……さらにさらに、ベッドの上でなんかの、キスってなると……。  ドキドキしてしまうの、もう、どうしようもない気がしてしまう。  キスは軽くてすぐに離されるけれど――――……。  近くで、まっすぐ、見つめられてしまうと。 「――――……」  心臓が、痛い。 「れ、ん……」  蓮の腕に触れて、少し、引き離す。 「――――……あの……」 「……ん」 「………おや、すみ……」 「――――……ん」  ふ、と少しだけ笑って、ちゅ、と頬にキスされてしまう。  ………っ。  もう。なんか、蓮て――――……。  なんなの。  ……オレなんかにキスしなくても、蓮にキスしてほしい子はいっぱいいるみたいで。 一連のキス騒ぎの途中で、女子に悲鳴が上がってた、なんて話も耳に入ってきた。  まあでも――――…… 蓮がモテないはずないし。  ……分かるんだけど。  なんか本当に――――……  なんでオレがドキドキしなきゃいけないんだか……。  ………分からなくなってくる。  そんな夜を何日か過ごした時だった。  蓮と離れてトイレに行っていた時、廊下で、森田と佐藤に会った。  週末のキャンプに何人か誘うから、お前と蓮も来ないか、との話。  ――――……何人か、か。   あんまり、集団は好きじゃない。しかも、泊り。  断ろうかなと思った瞬間。  でもふと、蓮は行きたいのかも、と思った。  なので蓮に聞いてから連絡すると返して、教室に戻った。  そしたら何か――――……蓮はすごく険しい顔してて。  聞いたら、オレが綺麗だからと言われたとか、よく分からない事で怒ってて。  ――――……ちょっと、ストレス、たまっちゃってるかなーと、思った。  なんかここ数日。  キスの騒ぎで、蓮も自分も、少しイライラしてたし。  特に蓮に、楽しい週末を過ごさせてあげたいと思って。  オレが、行きたくない雰囲気を醸し出したら、多分、今の蓮は、行かなくていい、という気がする。  最近いつもそれで断って、蓮は、オレと、居るから――――……。  たまには、蓮が大勢と楽しそうにしてるとこも、見たいし。  それで、オレも行ってみたい、という空気を出しつつ、キャンプに誘ってみた。そしたら案の定、「樹行きたいの?」と、あくまでこちらを優先させつつ。結局、行く事に決まった。  蓮は、やっぱりちょっと楽しそうにしてて。  ――――……ほんとはちょっと苦手で、すこし憂鬱だけど、頑張って行くって言って良かった、と思った。  ……のは、さっき、山田に会うまでの話。  行くメンバーが大体決まってきていて。  その中に、山田も来ることになったという話を聞いて。そこまでは全然良かったのだけれど。  こないだの飲み会前のカラオケに蓮と行きたがってた、蓮に片思い中の子も来る、との事。  協力してやって、と、言われてしまった。  ――――……蓮に彼女出来てほしいって、思えないのに。  協力なんか、できないよ……。  ………やっぱり、やめとけばよかったなあ。  蓮だけ送り出してあげれば、良かった。  山田に、「協力頼んでること、蓮には内緒ね」と言われてしまって。    そりゃそんなの蓮には言わないけど。  いったいオレ、協力って何すれば……。  一気に、憂鬱になってしまった。 「樹、なんかあった?」 「え」  二人で、夕食中。 「なんか、さっきから、ぼーとしてる」 「え。そ、う?……別に何も、ないよ」 「ふーん……?」  蓮の視線から、少し逸らして、おかずを頬張る。 「美味しい」 「……ん」  くす、と笑ってくれて、少しほっとする。  ――――……蓮、鋭いから、バレないようにしないと。 「明日さ、結局8人なんだって。オレと樹含めて男子5人と、女子3人」 「うん、今日聞いたよ」 「レンタカー2台借りて、車で行くって聞いた?」 「あ、そうなんだ」 「オレと佐藤が免許持ってるから、必然的に運転。だから、とりあえず大学終わったら、樹とオレは家に荷物とりに来て、そのままレンタカー借りに行って、集合場所で、誰か2人乗せて出発」 「うん。分かった」 「……お前、オレの隣ね?」 「あ……う、ん」  出来たら、そうする……けど。  隣に座りたいって……言いそうな気がする……。 「……何、歯切れ悪い。 樹? やなの?」 「嫌じゃないよ、でも……」 「でも?」 「……この旅行中、ずーっと隣……て訳にはいかないんじゃないかなーて」 「――――……」 「……皆と一緒な訳じゃん……?」 「短距離の移動の時は諦めるけど ……でも、基本、隣な?」  ふ、と笑まれて。  ――――……なんとなく、頷いた。  そりゃオレだって、隣に居れた方が楽しいし、楽なんだけど。 「泊りに女子呼ぶとは思わなかったから、ちょっとびっくりした」  そんな蓮の言葉に。 「うん。そうだね……」 「よく来るよな。男子5人とさ。 その内誰か付き合ってる奴ら居んのかな」 「うーん……どうなんだろ。全然知らない」 「知らないっていうか、興味、ないだろ」  クスクス笑われて、思わず頷く。  その通り。  別に、興味が、ない。 「オレも最近そういうのどうでも良くて、全然聞かないから、樹の事いえないけど――――……とりあえず、そこらへんは明日男子に確認しとくよ。気ぃ使った方がいいとこあるかもだし」 「そだね」 「10人まで泊まれるログハウスがあるから、そこに8人で予約したってさ」 「そうなんだ……」  てことは。  蓮のこと好きな坂井優菜ちゃん……も、同じ建物で一緒に泊まる、のか。  ……きっと今頃、超楽しみに、してるんだろうなあ。  ――――……山田に今日、初めて名前を聞いた。  クラスの中でも、可愛らしい女の子らしいイメージの子で。  派手な子が何となく見た目で蓮を気に入ってるとかじゃなくて。  本気で好きなのかなあ、と思って。    それからずーと、モヤモヤしている、どうしようもない、この気持ち。  はー。  ………ほんと。 憂鬱。  変に思われないように、蓮と普通に会話しながらも。  時たま小さく息が漏れるのを、どうしようもなかった。

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