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第20話「出発」*樹

 集合場所に車を止めて、一旦降りた。  全員集合して、どう分かれて車に乗るか、話していた時だった。 「樹、オレの隣に乗って!」  突然、佐藤に泣きつかれた。 「オレ免許取り立てで運転心配なんだよー」  意外な所から、妙な誘いか来てしまった。  どうしよう。  蓮がこちらを振り返った。 「先にオレの隣に乗ってもらう約束したんだけど」  蓮がそう言ってる。 「オレも長距離初だから。樹に乗ってもらえると安心するし」 「ていうか、オレも樹が一番安心だから頼んでるのにー」 「え、何でオレ?」 「だって、女子だと緊張するし、山田とかはふざけるし」 「あー……」  まあ……分からなくは、ない……。  オレは別に、佐藤の隣でも、大丈夫だけど……。 「だから、樹が一番安心できそう……」  そんな風に言われてしまうと。  ……どうしよう。  蓮を見ると、ちょっとムッとしてる。  そっち行くなよ、と思ってるんだろうなあ……。 「じゃあこう分ける?」  山田が割り込んできた。 「オレが加瀬の隣、後ろに女子三人。 佐藤の隣に横澤で、後ろに森田……とかは?」 「だから樹はオレの――――……」 「まあまあ、だって佐藤可哀想じゃん。ていうか、オレじゃやなのかー」 「嫌だっつーの」 「ひどい、加瀬くん!」  ふざけてる山田に、蓮が内心すごくイライラしてるのが分かるのは、きっと、オレだけだろうなー……と、オレは苦笑い。 「樹、いい? 隣……」  佐藤の心細そうな顔に、更に苦笑い。 「……蓮、オレ、こっち乗ってもいい?」  そう言うと、蓮はどうやらこれ以上言うのもおかしいと判断したみたいで。  はー、と息をつきながら、頷いた。 「佐藤、安全運転でな。オレ先走るから、なるべくついて来いよ」 「……ん、頑張る」  ちょっと隣に乗るのをためらう位の、力の込め方で佐藤が頷いてる。 「とりあえずどっかで休憩しよう。 山田から樹に連絡させるから。樹、スマホ出しとけよ?」 「うん」 「じゃあ出ようぜ」  蓮の言葉に応じて、皆動き出す。 「……樹乗せたかったのに」 「――――……蓮……」  オレにだけ聞こえるように言って、なんか少しむくれてるのが可愛くて、少し笑うと。 ぽん、と頭に手が置かれて、撫でられた。 「休憩所でな」 「……うん」  見上げると、ふ、と笑って。  蓮が車に向かって歩いていく。 「樹―」  佐藤に呼ばれて、振り返る。  もう森田は後ろに乗り込んでいて。急いでオレも乗り込んだ。  ドアを閉めて、3人になると、森田がおかしそうに笑った。 「なーんか、加瀬って、ほんとにお前のこと、好きだよな」  ちょっとだけ振り返って、森田を見て。 「そんな事ないよ」 「んな事あるって」  言い切られて、肩を竦める。  ふと気づくと、隣で佐藤が大分固まってる。 「……佐藤?」 「高速緊張する……」 「はは。 ゆっくり走ればいいよ」  そう言うと、佐藤がオレに顔を向けた。 「やっぱり、樹が隣でよかった……なんか落ち着く」 「つーか、お前も横澤好きな訳か」  クスクス笑って、後ろから森田が言ってくる。  蓮の車がゆっくり出発していき、佐藤もそれに続いて、車を発進させた。  |佐藤祐《さとう ゆう》は、いつもなんかすごく優しい。ほわほわしてる。今回は、来れなかった橋本といつも仲良い。  |森田大地《もりた だいち》は、とにかくはっきりしてるイメージ。ズバズバ物を言う。  このキャンプの発案者も森田だし、そういう騒ぐこと好きな蓮とは結構気が合うと思うけど……蓮は大学入ってからはあんまり参加してないから、一緒にいる所はあんまり見ないけど。  ……ていうか、蓮、オレとばっかり居るから。 「横澤ってさ~ 加瀬と高校から仲いいの?」 「入試の時に初めて喋った。 高校の時は接点なかったから」 「え。それで、一緒に暮らしてんの?」 「……うん、まあ……利害が一致して」 「利害って?」 「オレは料理できなくて、蓮は、洗濯とか掃除が苦手って」 「へーーーー。 そんなんで暮らして、うまくいくわけ?」  そんな風に言われてなんて答えようかと迷っていると、すぐに。 「うまくはいってそうだけど」  森田は、はは、と笑う。 「パッと見、全然タイプ違うのにな」 「まあ。そうだよね……」 「でもオレ、樹と加瀬が二人でいるのは、なんかわかるけど」  佐藤が前を見たままで、そう言った。 「分かる?」 「うん。なんか、穏やか。喧嘩とか、しないだろ?」 「――――……うん、まあ、しないかな……」  なんとなく、前を走っている蓮の車を、眺める。

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