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第21話「出発」*樹
「そーいや、山田ってなんであっち乗ったか知ってる?」
「?」
「女子3人の中に好きな子でもいんのかな」
「……全然知らないんだけど」
苦笑いで答えると、森田も「オレも知らないんだけど」と言って笑う。
「今回、あの3人連れてきたのは山田だからさ」
「あ、そうなんだ」
「オレは別に誰でも良かったんだけど……」
「そういえば、蓮が言ってた。今日の女子の中に誰かと付き合ってる子がいるのかなって」
まあ、一人は蓮のことが好きな子だから……それで山田経由でお誘いしたのかも、しれないけど。
「そういや、2人は彼女居るの?」
「オレは居ないよ」
森田に聞かれてそう言ったら。森田はふ、と笑った。
「お前にできないのは加瀬が邪魔なんじゃねえ?」
「え、そんな事ないと思うけど。 オレ、好きな子、今居ないし」
「あんだけ加瀬が張り付いてたら、女子もいけないんじゃないの?」
「……オレ、そんなモテないし。 いけないとか、そういうんじゃないと思うけど」
何言ってるんだろう、この人は。
そんな気持ちで、森田を振り返ると。
「うっわ、にぶいのな。 なるほど……」
クスクス笑う森田に、隣の佐藤が、「そういう言い方すんなよ」と苦笑い。
「樹はモテると思うよ。 あのゲームの後だって」
「――――……」
「……加瀬のこと好きな女子にも悲鳴が上がってたけど、 樹を好きな女子からも悲鳴が上がってたし」
佐藤の言葉に、特に違うとの根拠もないから何も言い返さないけれど、つい、首を傾げてしまう。
……誰、オレのこと好きな女子って。
心当たりがまったくないんだけど。……謎。
「オレそのクラス会、休んだんだよなー、つまんね、見たかった」
「……見なくていいって。なんで見たいの」
苦笑い。
すると、森田は、おかしそうに笑って。
「横ざわ……言いにくい、樹って呼ぶことにする。いい?」
「え。あ、うん」
「…樹が、加瀬にキスされて、どんな顔してたのか。見てみたかったな~」
「え、それ、マジで意味が分かんない」
すぱ、と切ると。 またおかしそうに笑う。
「佐藤はそのキス、見たんだろ? どんなだった?」
「どんなて…… だって、樹、すごい拒否ってたからね。 加瀬もさ、他の奴にしてもいいかとか言ってたし。でもなー、橋本も譲らなかったし……まあオレ達も悪乗りしてたしな」
「他の奴にしようとしてたのか? 加瀬が?」
「うん、相手変えてもいいかって、橋本に聞いてたよね?」
「うん。……言ってた」
「けど、オレと橋本も罰ゲームやったから、橋本も譲らなくてさー。結局加瀬と樹がやる事になったんだよ」
少し渋滞して、車が止まっているから、佐藤がオレを見て、ね、と笑う。
「――――……まあ、相当、まわり、悲鳴だったんだろうな」
「悲鳴もだけど、歓声も起こってたよ」
佐藤が苦笑しながら答えると、森田はおもしろそうに笑った。
「森田は、彼女いるの?」
「いるよ。佐藤は?」
「居る」
「2人とも、大学に居るの?」
オレが聞くと、2人は同時に首を横に振った。
「高校の時の子」
「オレも~」
「へえ、いいね、続いてるんだね。 オレは高2で別れちゃってるから、こないだ、元気かなーって思い出してたんだー」
「樹の彼女てどんな子だった?」
「んー……派手で、明るくて…… すごく活発な子だった」
思い出しながら言うと、佐藤も森田も、え、と顔を向けてくる。
「優しくておとなしい子、とかじゃないんだね」
「意外。 てか、絶対、ひっぱられてただろ」
「……よく分かるね」
ちょっと腑に落ちないけれどそう言うと、2人がぷっと笑った。……森田なんかは、もはやめちゃくちゃ楽しそうに笑ってる。
「樹、おもしれーな」
「……森田笑いすぎ」
「あ、怒った?はは。おもしろ」
むー。
一瞬黙ってると。
「ごめんごめん」
まだしつこく笑いながら、言ってくる。
「もーいいよ……」
苦笑いしてると、目の前の蓮の車が高速の入り口に向けて、車線変更していく。
「あ。佐藤、高速だね。……しゃべってても平気?」
「……んー。オレは答えられないかも」
「了解」
「頼むぜ、佐藤ー」
「とりあえず加瀬についてく……」
緊張し始めた佐藤を横目にしつつ。
「てか、森田が免許取ってないの意外」
「あ、オレ今取りに行ってるとこ。間に合わなかった」
「あ、そうなんだ」
「今度どっか行く時は、オレが乗せてやるから」
「うん」
やっぱりなんとなく、森田って、蓮とちょっと似てる気がする。
まあ森田の方が悪ふざけ度は高いけど。
意外と車の中、楽しくて、話が途切れない。
よかった、なんて思いながら。
蓮はどうしてるのかなあ、と。
前の車を眺めた。
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