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第22話「出発」*蓮

 樹と別れて車に乗る事になってしまった。  最後に、ぽん、と撫でた頭の感触と、笑顔が抜けない。  バックミラーに映る佐藤の車をなんとなく確認しながら、車を走らせ始める。何で、別れて乗る事になったかって。 「加瀬って、運転中、黙る人なの?」 「――――……」  諸悪の根源の山田が、のんきに隣から聞いてくる。 「……別に」  樹が乗ってるなら黙んねーけど。  樹、向こうで大丈夫かな。  ……って、大丈夫か。  樹は、人と話せないわけじゃない。  大勢が好きじゃないだけで、少人数で話す位なら、むしろ全然話せる。  ――――……また、過保護とか、言われるな。  後部座席の女子3人は、乗った瞬間から後ろでずっと喋ってる。  |松本咲《まつもと さき》はショートカットの超元気な子。  |坂井優菜《さかい ゆうな》は髪の長い、女子っぽい子。  |南智花《みなみ ともか》は、この中では一番話しやすい。サバサバしてて、なんなら、オレとは、男友達みたいノリ。  この3人、そういえばクラス会とかでもいつも一緒にいるっけ。  タイプ違うのに、仲いいんだな。  ……で、山田が、この3人と仲がいいのか??  女子がずっと喋ってて、それに山田もくわわってしゃべってるし、音楽もかかってるので、それを良い事にしばらく無言で過ごしていたら、山田のさっきのセリフ。  ……別に、運転中黙る人、ではない。  しゃべる気分でなかっただけ。 「加瀬、話しても平気?」  山田が聞いてくる。 「ああ」  前を見つめたまま答えると。 「加瀬って彼女居んの?」 「居ない」 「なんで?」 「――――……別に……今は欲しくないっつーか……」 「……ふーん」  微妙な沈黙。 「つか、山田は居るの?」 「オレも居ないけど」 「そっちは、なんで?」  山田の質問をそっくり返すと、山田はクスクス笑った。 「オレはお前と違って、彼女欲しいんだけどねー」 「好きな子は?」 「……ちょっといいなって子は居る」 「ふーん……告んねえの?」 「――――……いいよなー、お前はそうやってすぐいけるんだろうなー」  しみじみそんな風に言われて、そういうんじゃねえけど……と返す。 「絶対モテただろ、高校ん時も」 「……まあ……彼女は居たけど。別に普通」 「やだやだ。絶対普通じゃないんだろ……」 「普通だって」 「……何、今欲しくないのは、何で? 付き合いすぎて飽きちゃったとか?」 「飽きたとかじゃねえけど……」  けど……。  今彼女が欲しくない理由なんてわかり切ってる。  樹と居る時間が減るから。  ――――……そこ減らして、彼女に費やしたくないし。  ……なんて、さすがに言えない。 「そんな事言って、加瀬って、気づいたら彼女すぐできてそう」  後ろから南がそう突っ込んでくる。  いつも通り、オレの事を名字で呼び捨て。初めてのクラスの集まりから呼び捨てされたっけ。 「そんな自然と出来るもんじゃねーから。無いよ」  言いながら、後ろの車を確認しながら、ゆっくりめに走る。  ちゃんとついてきてるな。  ――――……つか、佐藤、樹が安心するからって何だっつの。  まったく……。  気持ちは分からなくはないけれど、おかげでこんな事になってしまったし。  なんて、悶々としていると。 「加瀬のタイプって、どんな?」  そう、山田に聞かれた。 「好きな子のタイプってある?」 「……決まってないけど」 「じゃ高校ん時の彼女、どんな感じだった?」 「んー……派手な子が多かった、見た目も、態度とかも」 「ああ、そうなんだ……ふーん……」 「……でも、わかんね。 今は穏やかな方がいいかも……」  樹と居る時みたいに、穏やかに居られる方が、心地よいし、楽しい。  ――――……つか、オレの思考って、どんだけ、樹なんだろ。  何考えてても、樹が基準って、なんだ。  横に居ないから、余計に思い出してしまう。 「――――……山田って、南達と仲いいの?」 「ん?」 「3人誘ったの山田なんだろ?」 「うんまあ――――…… キャンプの話を佐藤とかとしてたら、そん時この3人も隣に居てさ」 「ふーん。……坂井は、キャンプ好きなのか?」  バックミラー越しに、真ん中に座っていた坂井を振り返る。  松本は騒ぐの好きそうだし、南もノリノリで男子とのキャンプも平気そう。  一人だけ、坂井だけ、何となくちょっとイメージが違う。  男子と泊りのキャンプなんて来そうにない。  樹がキャンプに行きたがるのが珍しいなと思うのと、同じような感覚で、珍しい感じがするけど。  そう思って聞いたら。  急に話をふったせいか、ミラー越しに、びく!と驚かれた。 「あ、うんっ。楽しそうだな、と思って」  焦ったみたいに答えられて、またちら、と後ろを見ると。  横から山田が割り入ってきた。 「3人とも参加したいっていうから、森田に話したらOKくれたからさ。女子居た方がバーベキューとかも助かるし」 「ふうん。そっか。 ……あれ、そーいえばバーベキュー、肉とか買ってくって言ってたよな。どこで買うんだ?」 「高速降りてキャンプ場までの間にでかいスーパーがあるって。森田が言ってたよ」 「分かった」  適当に会話をしながら、後ろの車に合わせながら、しばらく高速を進む。 「加瀬の運転、快適。高速慣れてないって言ってなかったっけ」 「慣れてないけど……ずっと左車線走ってるし。全然問題ないだろ」 「うーん、でも、後ろの佐藤はずーっと強張ってるけどな……」  クスクス笑って山田が後ろの車を振り返って、眺めながら言う。 「その横で、横澤が楽しそうに笑ってるけど。佐藤はほとんどしゃべってないなー……」 「……休憩しよ。 山田、樹に次のパーキングで休むって連絡して」 「OK」  オレが言って、山田がスマホをいじって数秒。 「……了解だって」 「早や、横澤くんの返事」  南が突っ込んでくる。 「山田に連絡させるからスマホ持っててって、樹に頼んだから」  まじめに持っててくれるあたり、樹らしいけど。  ふ、と笑って、オレが言うと。 「加瀬と、横澤くんって、いつから仲いいの?」  南の不思議そうな質問が飛んできた。

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