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第34話「自覚」*樹

 ……意識する。  ――――…… 意識するって。蓮は、言ったけど。  どういう意味なんだろ。  ――――……オレが、意識、しないようにって言ったのは。  ……なんか、蓮を見てると、ドキドキしちゃうから。  他の皆の裸には一切ときめいたりしないのに。  ――――……ドキドキしちゃいけない、と思って、  意識しない事を必死で自分に言い聞かせてたのに。  男の裸見て、ときめくなんて、そんな事、人生で起きるなんて、思ったこともなかった……。  オレ、もう、これって……蓮の事……好きすぎなんだよね、オレ。  ……好きなのは、自分でも、分かってたけど。  蓮を好きな坂井の事、どうして心から応援してあげようって、思えなかったか。ずっとモヤモヤ憂鬱だった理由も……思い知ってしまった。  入浴施設を出て、皆でログハウスに戻る。  先を歩く、蓮の隣には、女子3人が並んでる。  ……というか、たぶん坂井を並ばせるために、2人がついていってあげてる感じ、なのかなあ。  ――――……やっぱり、胸のあたりが、モヤモヤする。  あーなんか……。  まさか、蓮の事を好きな女子に、やきもち妬くような事になるとは……。  ……うーん……。  オレほんとにこれでいいのかなあ……。  はー、とため息をつきながら、何気なく空を見上げたら。  星が、すごく綺麗で、一瞬見惚れた。  星、すごいな――――……。  足を止めて、空を見上げてると、後ろから歩いてきてた森田が、オレの隣で止まった。 「どした?」 「星が超キレイ」 「……ほんとだ」  なんか、モヤモヤした心が、キレイに、洗われる気がする。  森田は少しの間、同じように空を見上げていたけれど、ふっと視線を樹に向けて、笑った。 「超キラキラした顔して……ガキんちょか」  クスクス笑われてムッとして森田を睨む。 「――――……森田ってさ」 「ん?」 「彼女、どんな子?」 「はは、何それ、急に」 「なんか聞きたくなっただけ。言いたくないならいいよ」  森田からまた星空へ、視線を戻しながら、ゆっくり歩きだす。  隣に並んで歩きながら、森田はそうだなー、と少し考えてる。 「んー……優しい子」 「……へえ」 「いつも横で笑ってくれる子」 「……意外……」 「……んだと」  む、と目を座らせた森田に可笑しくなって、嘘だよ、と笑う。 「いいね。仲良さそう」 「んー。今はなー」 「ん?」 「大学が離れてまだそんな経ってねえからまだうまくいってるけど……」 「……ん」 「このままずっといけるのかなー……とは思うかも」 「……そうなんだ」  難しいんだなー。  ……恋愛って。 「まあ。いまんとこは全然平気だけどな」  笑う森田に、うん、と頷く。 「樹は?」 「ん?」 「好きな子、居る?」 「――――……」  ……何か森田に下手に答えるのは避けた方が良い気がして。  一瞬、答えられず止まる。 「……考え中……かな」 「――――……何を? 好きかどうかを?」 「……かなあ。色々……」 「ふーん……まあ――――……そんなの、考えなくても、分かるって」 「……?」 「好きかどうかなんて、一緒にいる時、すぐ分かるだろ」 「――――……」  思わず、じー、と森田を見つめてしまう。 「……なに?」 「――――……森田と話してると、なんか不思議……」 「不思議?」 「……なんか、悟り開いてる?」 「開いてねーし」  ぷっと笑いながら、森田は、あほか、と突っ込んでくる。 「さとりは開いてねーけど――――……オレ思うんだけど」 「……?」 「一緒に居て好きだって思っちまうなら、どうしようもないよな」 「――……」  森田って――――……。  それ、誰のことだと思って、いってるんだろ。  なんか、バレてそうな気もしてしまう。  ――――……バレても、森田なら平気かなあと、思わなくもない。 「あれ? 加瀬?」  森田の声に、視線を前に向けると。  そこに、先に歩いてた蓮が、立ち止まって待ってた。 「星、見てる?」  蓮がそう言って空を指さした。 「すっげえキレイじゃねえ?」  星を見上げて笑ってる蓮に、オレがうん、と笑うと。  森田がまた可笑しそうに笑った。 「――――……さっきの樹に負けず、がきんちょみてえ……」  ぼそ、と呟く。  オレにしか聞こえないような声で。  森田をふっと見上げると、「な?」とクスクス笑うので、ん、と頷いてみせる。  ……確かに、蓮、可愛い顔して空見上げてるかも。  そんなことを思いながら、蓮に向かって歩いていくと。 「あ。そうだ。 なあ、寝る部屋なんだけどさ」  急に森田が話題を変える。 「お前らほんとに一緒じゃなくていいの?」  その問いに、何て答えたら良いか、一瞬考えていたら、また森田が続ける。 「……樹って、慣れてる奴と寝た方がよさそうなタイプな気がすんだけど」 「――――……」  森田って、一緒にしたいって言ってもおかしくないように、そう言ってくれてる?のかな。と思うと、ますます答えにくい。 「そんな事ないなら、いいんだけどさ?」  そう言った森田に、蓮が、一言。 「――――……やっぱ一緒にしてもらう?」  蓮がそう言って、オレをまっすぐ見つめてくる。 「樹、どーする?」  森田に聞かれ、視線を森田に移して。   「……皆がいいなら、その方がいいかな……」  何だかドキドキしながらそう言ったら、すぐに、森田が頷いてくれた。 「いいよ。別に寝るだけだし、佐藤達も大丈夫だろ」 「……ありがと」  そう森田に言うと、全然いーよ、と笑う。  どこまで分かってんだか、分からないけど。  ――――……なんか全部バレても平気そう、なんて、また思ってしまう。  3人で星を見ながら、色々ゆっくり話しながら、のんびり歩いてログハウスに戻ると。 「お前らおそーい!」  先に行った皆が、ログハウスの前のテーブルで笑ってる。  蓮が、買ってきてたお菓子やつまみを出してくると、皆大喜び。   「もう22時だから声のトーン落とせ―」  なんて、森田に注意されて。  結局、ログハウスの中に入り、皆でテーブルを囲んで、あれやこれやと歓談タイムが始まった。

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