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第33話「意識」*蓮

 あんな個室に、樹1人で行かせられないし。  ――――……て、男風呂のサウナなのに、思考がそもそもおかしい。  それは、分かっている。  樹はそもそも男だから、こんな男だけの風呂場で、何も心配する事なんか、ないのだけれど――――……。  なるべく樹の方は見ずに一緒にサウナに入ると、中には誰も居なくて、正真正銘の2人きり。  樹が真ん中に座ったので、その隣に、座る。 「……きもちいー。……汗、すごい出てくる」 「――――……意外。なんか樹、サウナ苦手そうなのに」 「え、そう?」 「のぼせて倒れそう」 「何それ、どんなイメージ」  あはは、と樹が笑ってる。 「倒れた事ないよ。サウナ大好き」 「そっか」  汗がぽたぽた落ちてくる。  確かに、気持ちいい。 「蓮」 「……んー?」  目の前の壁にかかってる温度計を見たまま、返事をする。 「……蓮?」 「うん?」 「れーん?」 「?」  3回目、呼ばれて、何かと思って樹を見ると。  困ったような顔をしていた樹が、オレと目が合った瞬間。 「やっと顔みた」  そう言った。 「――――……え?」  ふわ、と樹が笑う。 「だってさっきから、なんかずーっと、そっぽ向いたまま話すから……」 「――――……」 「蓮っていつもさ、すごいまっすぐオレの顔見ながら話すから」 「――――……」 「全然見ないとさ、気になる」 「……気になってた?」 「うん。だって、ずっと、そっぽ向いてたから」 「――――ごめん」  言うと、樹はびっくりたみたいな顔で、え、と笑う。 「謝るようなことじゃないから……てか、ごめん、オレが勝手に気にしてただけ……」  苦笑いで、逆に謝ってくる樹に。  樹の前だと何でも話してしまいたくなる自分。  ――――……変に、ごまかすのは、やめにした。 「……オレが、意識、してるから――――……見れない、みたい」 「……意識……」  きょとん、として、繰り返してる樹。 「――――……オレ、どーしても、樹が好きみたい」 「――――……」  好き、なのは、樹も絶対知ってる。  ――――……このタイミングで何でそれを言うのかを考えているのだろう、すごく不思議そうな、表情。 「――――……意識しちまいそうだから、あんまり、裸、見れない」  そう言って樹を見ていると。  多分、樹は、その意味を考えて。  数秒後。かあっと、赤くなった。 「……っ何、言って……」  ――――……だから、なんで、そこでそんな顔、するんだ……。  さっき森田に言ってたみたいに、怒ってもいいのに。  ……怒ってくれたら、いいのに。  抱きしめてしまいたく、なってしまう。 「……樹、悪い。服着るまで、離れる」 「――――……」 「いい?」 「……うん」  樹がかろうじて頷いたのを確認してから、オレは立ち上がった。  サウナの扉を開けたところで、佐藤達三人がやってきた。 「あれ、加瀬は脱出?」 「ああ。……もう無理」 「はは。樹は? ――――……って、樹も真っ赤じゃん、大丈夫ー?」  3人、サウナに入っていき、中に入った佐藤の声を最後に、扉が閉じた。  出た所にある、冷水を、手桶で足からかけていく。  ――――……オレ、何言ってんだ……。  ……つか、オレ――――……やっぱり、そう、なのかな……。  ……好きすぎるとは思ってたけど――――……分かってたけど。  ――――……裸が見れないって……。  つか、他の奴ら見ても、何にも感じない……というか、むしろそれは見たくもないし。  ……樹限定で、男も対象なのか。  はー……。  ――――……裸で、汗かいて、上気してる顔。  なるべく、顔だけ、見ていたんだけれど――――……。  煩悩を振り払おうと、水をめちゃくちゃかけた。  その後、1人、露天でぼーと浸かり、空を見上げる。  ――――……見れないとか言ってないで、見ちまえば、いいのか?   男って、思い切り確認できれば、冷めるか……? 「――――……」  ……冷める気がしなくて、試す気がしない。  上を向いて、目を閉じる。  大浴場から露天につながる扉が開いて、皆が入ってきたのが、騒がしい声で分かる。 「加瀬、寝てんのー?」  佐藤の声がすぐ近くに近付いてきた。  目を開けて、「起きてる」と答えてると。 「あ、オレ――――……ちょっとのぼせたから、シャワー浴びて出るね」  樹の声がして、山田が、おう、と答えてる。  入ってこずに、樹が出て行ってしまった。  ……あー……オレのせいだな……。 「――――……オレももう出る」  急いで上がって、露天風呂を後にした。  露天から大浴場に移り、 先を歩いてく樹の隣に並んだ。 「蓮……?」  さっき離れるって言ったのに、と思ってるんだろうな。  もう、素直に、謝ることにした。 「……ごめん、樹」 「……?」 「離れよとか言って」 「……大丈夫」  樹が、ふ、と笑ってる気配。 「露天、行かなくていい?」 「うん、明日行く」  ……てことは、露天風呂、行きたかったってことだよな。 「――――……ごめんな」 「こっちのお風呂は入ったし、全然いい。……ていうか……オレ……蓮に言われたからってよりも……」 「?」  「……オレも…… 意識、しないようにしてたのに――――……」 「え?」 「蓮が、あんなこと言うから……」 「――――……」 「どうしても、意識、しちゃうから……オレも、ちょっと離れたくて、離れたんだよ……蓮のせいじゃないから」  ――――……そんな風に、言った樹に。  途端に鼓動が跳ね上がる。  意識しちゃうって。  ――――……それって……お前も、オレを意識するって、こと? 「――――……」  ――――……このまま、抱き締めて、キスして、触れたい。  ……突然の、激しい衝動に、自分で、焦る。 「……あー何言ってんだろ、オレ……ごめん、分かんなくなってきた……。シャワー浴びるね」  樹がオレから離れて、シャワーを浴び始める。  平静を精一杯装って、1つ離れた席で蓮もシャワーを出した。  ……オレの、好きって。  ――――……友達を好きなのとは……完全に、違う、んだな。  ……ヤバすぎる。 「先、行ってるね」  手早く浴び終えて、樹が脱衣所に姿を消した。  ――――……水にして、頭を冷やしてから、大浴場を出た。  脱衣所を見回すと、樹の他には、ドライヤーを使ってる人が1人だけ。  もう服を着終えている樹の隣に立った。 「……樹」 「――……うん?」  オレを見上げてくる、樹を、じっと見つめる。 「あとで、話したい」 「――――……うん、話そ」  ふ、と笑う樹。 「なんか……ゆっくり話したほうが、いいよね……オレ達。ここに来てから、変に離れたり、話してるの途中になったり……」 「……どっかで二人になろ。……声かける」 「ん。分かった」  その後は、なんとなく、無言。  他の皆が出てくる前にすっかり服を着終える。  ……髪――――……いつもみたいに、乾かしてやりたいけど……  何言われるかわかんねーし、やめとくか……。  仕方なく、1人、鏡の前に座って、ドライヤーの電源を入れる。  樹が歩いてきて、オレの隣の鏡の前に座る。 「――――……」  樹が、じー、と、ドライヤーを見て。  ぷ、と笑う。 「今日明日は、ちゃんとやろーと」  きっとオレにしか意味が分からないように言ったんだろうと分かって。  思わず、ふ、と笑ってしまう。 「明後日は、オレするから」 「――――……うん」  樹もまた、ふ、と、笑って頷いてる。 「――――……」  黒いTシャツを着てると、肌白いのが際立つ。  首筋、綺麗。  ――――……まだ引かない、頬の赤さが、色っぽ……。  ……だめだ、これ以上、考えんな。  樹が、隣でドライヤーの電源を入れて、髪をパサパサと手で散らしながら、乾かしてる。  乾くにつれてふわふわ柔らかくなっていく、いつもの感触が浮かんで。  すごく触りたいのだけれど。  ――――……諦めた。

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