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第32話「オレ、やばくないか?」*蓮

   樹に謝って、仲直りが出来て。  ……まあ別に喧嘩してた訳じゃないんだけど。  やっと、樹が、ほわほわした顔で笑ってくれて。  一安心。  焼きそばの後、皆で片付けをして、入浴施設まで、歩いた。  歩いているその間に突然、ふっと、気づいてしまった。  ――――……樹と、風呂に入るって、初めてかも。  高校の時、プールあったけど、一緒になった記憶もないし。  ……裸。  見るのって、初めてじゃねーか……?  突然意識してしまったら、なんだか動揺。  大浴場の前で、男子と女子に別れる。 「出たらそっちの休憩所で待ち合せなー」 「はーい、じゃーねー」  山田の声に女子が答えてるのを聞きながら、「男湯」と書かれた暖簾をくぐって、中に入る。  やばい。  ……緊張してきた。  少し、樹と離れた所のかごに、持っていた袋を置いた。  意識しない。意識しない。  あんまり見ないで済まそう。 「樹、腰、細すぎ」 「――――……うるさいなあ」  山田の声に、樹が嫌そうに言ってるのが後ろで聞こえる。  ――――……見ない、見ない。 「いいの、お前、そんな細くて。 彼女より細かったんじゃねえ?」 「……森田、もー見るな、近寄んな」  樹が森田から離れて、荷物を持って、オレの近くに来た。  ……ごめん、樹。  いまだけ、来ないで。  もう、さっさと中に入ってしまおうと、上を脱ぎ捨てた。 「加瀬、もっと樹に飯食わせろよ」 「……つか、樹、ちゃん食ってるし」  そう答える。 「オレ、太らないだけだから」  樹が嫌そうに、そう言ってる。 「ていうか、甘いものとかも好きだし、太らないのが不思議な位」 「ふーん」  ベルトに手を掛けながら、そう言って振り返ると、森田はそんな返事。 「食ってんのに、そんな細いのか」 「先行くぞー」  佐藤と山田はさっさと脱いで、行ってしまった。 「加瀬って、良い体。嫌味だな」 「……それはどーも」 「筋肉ついてんなー」 「高校、陸上だからな」 「蓮は筋トレ、続けてるもんね。えらすぎる」  横で樹がそんな風に言ってる。  全部脱ぎ終えて、先に行こうかと思ったけれど、なんとなく森田と2人で残したくなくて、用意してるふりで樹を待つ。 「蓮、サウナあるって書いてある。行く?」  ふっと止まって、壁の張り紙を見てた樹が、嬉しそうな声。 「サウナ、好き?」 「うん。好きだけど、なかなか行かないから、嬉しい」 「確かになかなか行かないな……」 「大学の近くにスーパー銭湯あるじゃん。そこにサウナあるよ」  森田の声。 「そうなんだ。 スーパー銭湯あるのは知ってたけど…… なかなか大学のそばって、行かないよね? 授業終わったら帰るし」 「え、オレ結構行くけど。一人でも行っちゃう」 「そうなんだ」  ふ、と樹が笑う。 「今度行こうぜ」 「うん。いいよ」  森田の誘いに、樹がすぐ答えてる。  ――――……ほんと。  今日1日で、ずいぶん仲良くなったな……と純粋に思いつつ。  ……2人で風呂とか、あり得ない。  絶対行かせないし。    などと思っていると、横から樹がオレを覗いてくる。 「蓮も行く?」  すっかり脱ぎ終えた樹に、下からのぞき込まれて。 「そう……だな」  何とか答える。 「早く入ろうぜ」  言って、オレは大浴場への扉を開けた。  中は結構広くて、露天やサウナや水風呂、打たせ湯もあった。  佐藤達が洗い場で流してるのが見える。 「おっせーな、お前ら」 「露天いってるねー」  2人がさっさと消えていく。  樹と森田が歩いてくるのを横目に、椅子に腰を下ろした。  つか。  ……樹の方を、ちゃんと見れない。  ――――……つか。オレ。  ……樹のことが、大好きだけど……。  頭撫でたいとか。頬に触れたいとか。抱きしめたいとか。  ……キス、したいとか。  ――――……もっと、思うまま、キス、したいとか。  確かに思ってるけど。  ――――……体、見れないって。  やばくないか。  なんで見れないかも、分かってる。  ――――……完全に、ヤバい意味で、意識、してしまいそう、だから。  一緒に同じベッドで寝ても、キスだけで、止めていられるのは、  それ以上は、考えちゃいけないと思って、タブーにしてて。  それが、なんとかうまくいってるから。  ――――……裸を見て、男って事で、ちゃんと認識して、  逆に意識しなくなれば、それはそれで、いいと思うんだけど。  ……どう考えても、今見たら、意識しない方にはいけない気がする。  なのに、樹が隣にきて、さらにその隣に森田が並ぶ。  ……今だけは隣とか、ほんと来ないでほしい。 「おまえって、男だよなー?」 「……は?」 「なんか白いしキレイだよな――――てか、エロイ?」 「……ぶんなぐっていい?」  樹の口から、樹にしてはびっくりな発言が飛んで、森田が大笑いしているが、その前の森田の発言。  ……ほんと、許されるなら、オレがぶん殴ってやろうかな。  物騒な考えが浮かんでしまう、 「蓮、森田どーにかして……」 「無視しな、樹……」 「そっか、わかった」  オレの言葉に、樹がうんうん頷いて、頭からシャワーを浴びてる。 「山田たちは露天?」  森田に聞かれて頷くと、オレも外行ってくるなーと、早々に消えていった。  樹と二人。洗い場に残される。  正確には、周りに他の客がいるので二人きりではないのだけれど。 「蓮、サウナ、行く?」 「すぐそっち?」 「うん、行きたい。蓮行かないなら一人で行ってくるからいーよ」  そんなことを言いながら、樹が立ち上がる。 「行くよ」  あんな個室に、樹一人で行かせられないし。  樹の方を見ないようにしながら、一緒にサウナに向かった。

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