31 / 65

第31話「タイプ」*樹

「なあ、樹て、部活何だった?」  佐藤が急に聞いてきて。は、と気を取り直す。 「んー……あててみる?」 「何でクイズになっちゃったんだ」  佐藤はクスクス笑って。隣に座ってる松本と南と、「なんだろ」と首を傾げてる。 「文化部?」 「はは。あたり」 「えーなんだろー……」  皆で、うーん、と考えてる。 「文化部って何があるっけ?」 「美術……パソコン……吹奏楽……囲碁将棋……あと何だろ」 「あ、その中にあるよ?」  オレが言うと、どれだろ、と悩みだす。 「なになに?」  蓮の所からウインナーを奪ってきた、森田と山田が戻ってきた。 「樹の部活。美術、パソコン、吹奏楽、囲碁将棋の中にあるっていうから、考えてるとこ」  佐藤が説明すると、森田も山田も、んー、とオレの顔を見る。 「――――……囲碁将棋、かな。 なんか似合う」  くす、と笑って森田が言った。 「はは。あたり。 オレは囲碁しかやってないけどね」 「囲碁か~ なんか頭良くないと出来なそう。オレ、やった事ない」  佐藤のセリフに、「そんな事ないし。やればできるよ」と苦笑い。 「今度教えろよ」 「いーよ。いーけど…… 森田、最初に入門書読んできて」 「そっから教えろよ」 「読んだ方が早いもん」 「そういうの読むの嫌い。教えて」 「じゃあ、今度ね。オンラインとかでやろ」  クスクス笑って承諾。  その後も、皆と話してはいたけれど。  ……どうしても、蓮のことが気になって。    蓮と坂井が一緒に居るから、誰も邪魔しに行かないんだけど……。  ずっと焼いてくれてるし……。  替わってあげようかなて思うのと、なにより。  ……蓮と、すこしでもいいから――――……話したい、し。 「樹、どした?」  耐えられなくなって、立ち上がると、佐藤に聞かれた。 「んー……蓮と坂井、ずっと焼いててくれてるから、替わろうかなと思って」 「あ、そうだな、じゃオレも行く」 「うん。ありがと」  佐藤と一緒に、蓮のもとに向かう。  こっち向きに立ってる蓮と、すぐに目が合う。    「焼くの替わるよ? ちょっと休んで」  オレが声をかけると、坂井がぱ、と、振り返った。 「いいの?」 「うん。座って食べてきて」 「ありがと、横澤くん。 加瀬くんも座りにいく?」  坂井の言葉に、一瞬間が空いて。 「オレ、まだいいや。坂井、休んでいいよ」 「うん、わかった」  蓮の言葉に坂井が頷いて、皆のもとへと歩いていく。 「ずっと焼かせてごめんごめん、加瀬も、休んでいいよ」  佐藤はそう言って、蓮の背中をぽんぽん、としてる。 「別に疲れてないから、良いよ」 「そう? じゃーここで座ってようかな。何かオレ今日、加瀬としゃべってないし」  言いながら、佐藤が余っていた椅子を、コンロの横に置いて、腰かけた。 「樹も椅子持ってきたら?」 「んー……今いいや」  佐藤の言葉にそう返して、オレは、蓮の隣に近寄った。 「蓮、座らなくて、いい?」 「ん、良い」 「じゃあ焼くの手伝う」 「あー……。ちょっと待って」    蓮はふと顔を上げて、皆の方を向いた。 「焼きそば食いたい奴いるかー?」  蓮の声に、皆、はーいはーい、と手をあげてる。 「肉まだ食いたい奴はー?」 「肉はもういいー 焼きそば食べたいー」 「りょーかい」  ばらばらかえってくる言葉を聞いて、蓮がふ、と笑った。 「なあ、佐藤、悪い。余った肉、冷蔵庫入れてきてくれるか?」 「うん、いーよ、どれ?」 「そこのクーラーボックスの中の肉全部。あと野菜も」 「OK」  佐藤が立ち上がると、クーラーボックスを持って、ログハウスの方に歩いていく。蓮は、手早く網をどけて、鉄板を置いた。少し油を引く。 「温まるまでちょっと待つから。――――……な、樹」 「……うん?」  声の調子が変わって。  見上げると、蓮が、すごく困ったような顔で、オレを見つめた。 「――――……ごめん、さっき、オレ」 「え?」 「……態度、悪かった。ごめんな」 「……てか、蓮、悪くないし。 オレこそ、ごめん、野菜途中で抜けたし…… 戻らなかったのも、ごめんね」 「戻らなかったのは、南もだし。……つか、オレ、ほんとはその事に文句言ってる訳じゃないんだ、別に大したことないし。……違くて。ただ、樹に居てほしかったから、居なくなって、嫌だっただけ」 「――――……」 「……ただの我儘だから、オレが悪い。 ごめんな」  蓮の言葉に少し驚く。  ――――……蓮て、そんなに、オレと、居たいの、かな。 「――――……蓮てさ」 「ん?」 「――――……オレと居て、ほんとに、楽しい?」 「え?」 「――――……なんか……蓮が高校まで仲良かったのってさ、オレとは、全然タイプ違うでしょ? なんか……オレと居て、楽しい、のかなって……」  そう言うと、蓮は、じー、とオレを見て、はー、と息をついた。 「――――……オレ、何回も、樹と居たいって、言ってるよな?」 「うん……でも」 「でもじゃないし。――――……んなコトいったら、樹だって、オレみたいなタイプ、好きなのかって話になるけど」 「……高校で見てた時は……縁のないタイプだと思ってたよ」  蓮が、眉を寄せて、黙る。 「……今は?」 「――――……今は…… 蓮居ないと、寂しい……かな……」 「……かなじゃなくて、寂しいって言えよ」  そう言って、ふ、と蓮が笑う。  ――――……あ、なんか。いつも通りの、笑顔。  途端に、嬉しくなって、うん、と頷くと。  蓮は、じ、とオレを見つめて。  ふ、と優しく笑んだ。 「……ていうか……いままで居ないから 余計、こんなに大事なんだと思うし……」  そんな風に言われて。  なんだか、すごく嬉しくなって、蓮を見つめ返す。 「あ……佐藤が戻ってくるからまた後でな」 「……うん」  ふと見ると、ログハウスから佐藤が出てきた所だった。 「樹、そこの人参と肉、焼いてくれる? こっちでキャベツ焼く」 「あ、うん」  鉄板に材料を落として、菜箸で焼いてると、佐藤が近くに戻ってきた。 「佐藤ありがとな」 「うん。なー、加瀬、全部そのまま冷蔵庫つっこんじゃったけど、いい?」 「どーせ明日使うし。良いよ」 「んー分かった。あ、2人とも何か飲む? オレ飲み物取ってくる」 「お茶がいい」 「オレも」  オレと蓮に頷いて、佐藤がまたテーブルの方に歩いていく。 「そういえば、樹、トウモロコシ、甘かった?」 「うん。美味しかった。蓮、食べてないの?」 「明日食べる」 「明日はオレも焼くから、ゆっくり食べていいから」 「別にいいよ、一緒に焼こうぜ」  蓮はそう言って、もういつも通り、優しく笑う。 「――――……うん」  なんか、オレ、やっぱり蓮のことが好き、だなあ……。  蓮が、こんな顔で、笑っててくれるなら。  オレ、ずっと蓮と居たい、なあ……。    そんな風に思ってしまって。  顔がほころんでしまうのを止められなかった。

ともだちにシェアしよう!