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第36話「ヤバい」*蓮

 意識……?  樹は何を意識してるんだ?  意識しないようにしてたのに、って、さっき言ってた。  ――――……色んな意味に取れて。  都合よく解釈すれば、  その意識は、オレと、同じ意識、なのかなとも思うけれど。  ――――……勝手な解釈はやめておこうとも思った。  入浴施設からの帰り道、森田と歩いてる樹が、何だかすごく可愛い顔をしてたので、なにやら気になって。不自然だけど、待ったりしてしまった。  あほすぎる、オレ。  ――――……独占欲、無いタイプだと、自分の事、思ってたのに。  嫉妬とか、無縁だと、本気で思っていた。  もちろん、綺麗だし、可愛いし、良い子だしと、その時々で、付き合う理由はあったし、それで、相手を好きにもなってるつもりだった。  でも、独占したいとか、誰かと話してるのに嫉妬するとか、そういう気持ちは一切湧いてこなくて。  むしろ、何の意味もなく話してる女友達にまで妬かれると、途端に面倒になったのを思い出す。  ヤキモチ妬かれたら冷める、なんて。   過去のオレは、最低だったかも。  というか――――…… たぶん、そこまで好きじゃなかったんだと、今は思う。失いたくないとか、誰かに奪われたくないとか、思えていなかった。  何の他意もない男と、樹が楽しそうにしてるのを見て気になるなんて、もはやただのバカだと思うのだけれど。 「星、見てる?」なんて聞いて、ごまかしたら、ふわ、と笑って樹が頷いた。  もうなんか、ほんとに可愛くて、だめだ。  その後、森田に部屋を一緒にするか聞かれて。  ――――……樹が一緒が良いと、言ってくれて。  もうそこからは、ほんとは早く2人きりになりたくて、しょうがない。  の、だけれど。  ――――……まあ、そうもいかない。  皆で来てる訳で。  ログハウスの中で、皆で一緒に話す。  まあ、こういうのは嫌いじゃない。というか、すごく好きだった。  適当にいろんな話をして、笑って、騒ぐ。  ――――……今も、嫌いでは、ない。  のだけれど。  ――――……また樹と離れてしまった。  まあ……無理無理隣に座るわけにもいかないし。  ……皆で来たらしょうがないのだけれど。 「なー加瀬―!」  山田が樹の隣から、オレを呼ぶ。 「何か食べたいー」 「何かって?」  目の前にお菓子や、つまみっぽいものは置いてある。 「肉食いたい」 「はー?」 「オレもなんか食いたい。ちょっと腹へった」 「加瀬の料理うまいって、樹が言ってたしー」  森田と佐藤まで乗っかってくる。 「……まあいっか。……樹も食べたい?」  聞くと、樹が楽しそうに笑いながら、うんうん、と頷いてる。  ああ、もう。可愛い。  ……早く話したい。  ……けどしょうがない。  がた、と立ち上がる。 「待ってろ」  樹以外の男三人、ちらと見て、そう言うと、「はーい」と良い返事。 「加瀬くん、手伝う?」  坂井が言ってくる。 「良いよ。座ってて。 簡単なもの作るから」 「……ん」  テーブルを離れ、キッチンに向かう。  小鍋にたっぷりのオリーブオイルを入れて、チューブのニンニクを落とし、弱火であぶって、香りを立てる。  ほんとは普通にニンニクと鷹の爪とかほしいけど……ま、これでいいや。  そこに残ってたもも肉と、エリンギをつっこんで、塩を少し入れて、待機。  他に何か作れるか……っても、  大したもの残ってねーしな。    キャベツと豚肉かー……焼けばいいか。焼き肉のたれ、あるしな。  もう一つフライパンを出して、今度は薄くオリーブオイルを入れて、豚肉に火を通す。 「加瀬くん、やっぱり手伝うよ」  坂井がやってきた。 「あー……じゃあ、適当に取り皿、出してくれる?」 「うん」  せっせと取り皿をだして、運んでいく。  それを横目に、肉に火が通ってきたので、キャベツを追加。  適度な所で、焼き肉のたれを絡めて、完成。  大きめの皿にざーと、盛り付けて、戻ってきた坂井に渡す。 「持ってってやってくれる?食べてていいから」 「うん! ……すっごい美味しそう」 「炒めただけだよ」 「加瀬くん、ほんと、すごいなあ……」  なんて、言いながら、坂井がそれを届けると、うまそーだの、いただきまーすだの聞こえてくる。  鶏肉の方をみると、もうこっちも大丈夫。火を止める。  鍋敷き片手に、小鍋をそのまま持って、戻る。 「加瀬、超、うまい! 飯がほしい」 「それは無い」  笑って返すと、「分かってるけどー」と山田が騒いでる。 「これ鍋熱いから、気をつけろよ」  言って、鍋を真ん中に置くと、皆興味津々でのぞき込む。 「これ何て料理?」 「アヒージョ」 「知らん!」 「オレもしらねー」 「あたしもしらないー」  女子達までそんなことを言ってる。 「樹は知ってんの?」  佐藤が樹に聞いてる。 「うん。……てか、蓮が、たまに作ってくれるから、知ってる」 「これうまいの?? 油に浮いてる……」  森田のそんな台詞に、苦笑いしていると。 「美味しいよ」  樹がクスクス笑って、森田を見て笑ってる。  ――――……樹が楽しそうで、良いのだけど。  ……森田に、そんな、楽しそうな笑顔を向けられると、面白くない。 「うまーい!」 「加瀬、天才」  大げさな誉め言葉に、「それはよかった」と返しながら、席に座る。 「加瀬くんの、これね」 「あ、ありがと」 「とっとかないと、全部なくなっちゃいそうだったから……」  坂井がクスクス笑う。 「つーか、結構な量のキャベツと豚肉使ったんだけど……すげーな」 「ほんとに美味しかったから」 「それはどーも」  坂井の言葉に、笑ってそう返す。  まあ、普通の炒め物だけど。  飢えてるとうまいよな。  ……つか、風呂の前に結構食ってたはずだけどなー……。  なんて思いながら、肉を口に入れてると。不意に。 「樹、あーん」  そんな声が聞こえてきて、何となくそっちを見る。 「え?」 「ほれ、この鶏肉で最後だから」 「……あー……  っあ、ち」  森田に、あーんで食べさせられてる樹に、ぷち、と何かが切れる。  森田は彼女いるっつってたし、何の意味もないのは、分かってる。  ――――……が。そういう問題ではない。  口に突っ込まれた鶏肉が熱かったみたいで、樹が、口元押さえてふうふう息を吐いてる。 「森田、ほんとやだ、熱いっつの……」 「だって、樹が食べてなかったから」 「ちょっと食べたから良かったのに……つか、熱い。 唇と舌、やけどした」  べー、と舌を出して、そこに、コップで水を流してる。 「んー……氷欲しい……  蓮、ごめん、氷って残ってる?」 「……ああ、たぶん」  がたん、と立ち上がって、またキッチンに向かう。  ――――……はー。  落ち着け。  ……なんか色々と、クるものがあって、ムカつくけど。  ……落ち着けオレ。  必死で落ち着こうとしてるオレのもとに、樹がやってきた。 「蓮ごめんね、氷、ある?」 「……ん、残ってるよ」  冷凍庫を開いて、買ってきた氷の袋の中から、少し小さめの氷を出すけれど、まだ口に入れるにはでかい。  水道を出して、手の中の氷を少し溶かす。 「ほら、樹」 「あ、うん。ありがと」  近付いてきて、受け取ろうとした樹の手をさえぎり、口の所に持っていく。 「え……あ」  少し戸惑いながらも、反射的に開いた唇に、氷をつるん、と挿し入れた。 「っ」  樹が、氷が入った唇を、抑えてる。 「――――……」  なんか。  ――――……オレの手から、樹の口に、氷が入って。  って。  ……なんか、すごく……やばい。  って――――…… オレは、バカだな。  はー、とため息をついて、気を取り直して顔を上げる。 「……口やけどしたの? 大丈夫か?」  なるべく平静を装って言いながら、樹を見ると。  樹は、かあっと赤くなって、固まってた。 「あ、ごめ……ん、なんか……恥ずかしく、なって――――……」 「――――……」  つか。  もう……勘弁してほしい。  誰も居なかったら――――……。  抱き締めて、キスしてる。  しかも――――…… 触れるだけのキスなんかじゃ、  絶対もう、我慢、出来そうにない。  本当に、やばい。    どう、この衝動を抑えれば良いのか、  昨日まで、どう抑えてたのか。  よく、わからない。  

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