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第37話「好きって」*樹
……森田て、絶対、いじめっ子だったに違いない。
しかも、うまい具合に、人を操るような。
ほぼ無理無理口に入れられた鶏肉がめっちゃ熱くて、ヒリヒリする。
水でどうにかしようと思ったけれど、無理だった。
蓮に氷をもらえるか聞いたら、探しに行ってくれたのでそのすぐあとを追う。
大きい氷を、少し溶かして小さくしてくれて。
受け取ろうとしたら、手が口元にきた。
たった今森田から熱い鶏肉突っ込まれたばかりなので、一瞬ちょっと退くけど、でも蓮だからいいやと思って、口を開けた。
「っ」
冷たい。
――――……冷たい感触が、つる、と口の中に入った瞬間。
なんでだか、意味も分からず、ぞく、として。
咄嗟に唇を押さえた。
「――――……」
蓮が少しの無言の後、 はあ、と息をついた。
「……口やけどしたの? 大丈夫か?」
蓮がまったく普通に話しかけてくるのに、何でオレだけ、こんな、おかしくなってるんだろうと、思って、恥ずかしくなる。
……ただ、氷を入れてくれた、だけなのに――――……。
何考えてんの、オレ……。
ほんと、頭、おかしい――――……、
頭の中は、ぐるぐる回って。
蓮が、ふと見つめてきた瞬間。
血が上った顔を、逸らす事もできず、固まった。
「あ、ごめ……ん、なんか……恥ずかしく、なって――――……」
「――――……」
言って顔を逸らした。
「いつ――――……」
蓮が一歩、オレに近づいてこようとした瞬間。
「樹、だいじょぶ? 氷あった?」
森田がやってきて、蓮がぴた、と止まった。
「……あって、今食わせた」
蓮が普通に、森田にそう返した。
「樹、コップに氷入れて渡そうか?」
「……うん」
頷くと、氷の袋から、新しいコップに氷を移していく。
森田に赤い顔を見られないように、蓮の隣に並んで、コップに入っていく氷をただ見つめる。
「――――……」
ドキドキする。
――――……なんか……蓮の手から、直接、なにか食べさせられるって……
なんか……すっごく恥ずかしいことな気がして。
……とにかく、ドキドキ、してしまった。
ああ、なんかオレ、ほんとにヤバい。
「ほら、樹」
蓮にコップを渡される。
やっと少し引いた顔の熱。 口の中に氷を入れて、森田を振り返る。
「……マジで熱かったんだけど」
「あぁ、ごめんって……今度から温度に気を付ける」
森田が、全然悪かったと思ってない感じで笑いながら言う。
「ていうか食べさせなくていいから」
ほんとにもう。
可笑しそうに笑う森田に文句を言いながら、皆のもとに戻る。
蓮も、元の席に座った。
――――……さっき、森田が来なかったら……。
蓮、なんて言ったのかな……。
オレの反応、絶対おかしいもんなあ……。
何て言われたんだろう――――。
ああほんと、あんなことに反応して、真っ赤になって、
オレ、ほんと、バカみたい。
「もう口、冷えた?」
「……うん、もう平気」
森田に答えると、よかった、とほっとされた。
苦笑いしてると、森田が、クスクス笑う。
「じゃないと、加瀬に怒られちゃいそうだからさー」
急に、耳元でこそ、と囁かれた。
「っ!」
耳にかかった息に、びく、と震えて、体を退く。
「あ、樹、耳弱い?」
「……っ」
「あはは、真っ赤」
可笑しそうに笑ってる森田をきっと、睨む。
しかも言ってることも、意味わかんないし!
「……何で蓮が怒るんだよ」
あんまり周りに聞かれたくないから、森田にだけ聞こえるように言うと。
「樹にケガなんかさせたら、加瀬に殺されそうって意味。超甘やかして守ってそうだからさ」
ぷぷ、と笑って、森田が囁く。
「てか、だから、耳元でしゃべんなよっ」
ぐいっと森田を押しのける。
もうほんと、やだこいつ。
大人っぽいかと思うと、いじめっこみたいだし、
優しいかと思うと、意地悪いし。
「森田、樹いじるの好きだなー」
佐藤が横で面白そうに笑いながら言うと、森田は、ふ、と笑った。
「こういう奴、慌てさせんの、大好き」
「……つか、もう、近寄らないで。佐藤席かわろ」
「えー?いいけどー」
クスクス笑いながら佐藤が立ち上がろうとしてくれたので、樹も立ち上がろうとした瞬間。
ぐい、と肩に腕を回されて、引き止められる。
「もーいじめねーから」
クスクス笑って言う森田の力が強くて外せない。
はー……。
「分かった……動かないから、とりあえず離して」
「ん」
離してくれたので、またため息をついて、座り直す。
「……森田って、絶対いじめっこだったろ……」
「んなことないよ。心外」
「絶対うそ……」
ため息をつく。
「むしろオレはいじめられてた奴助ける方だったしー?」
「へーーー」
「あ、何その棒読み」
「ふーーん……」
そんなやりとりを見ていた佐藤が、「仲良しだな」なんて言ってくる。
このやりとりのどこが仲良しでだと思うんだろう。
なんて思うけれど、森田と話してる飽きないっていうのはあるかもしれない……。 でも佐藤や山田の方が落ち着いて話せるけど……。
このまま朝まで続くんだろうかと思ったけれど、急に森田が、明日も出かけるからそろそろ寝ようと言い出して、急にお開きになった。
皆で片付けて寝る準備をしたら、各自部屋にばらけることになって。
なんだか、もうすぐ蓮と、2人になると思ったら、すごくそわそわしてきて。 片付けとか上の空。
「じゃーなー、おやすみー」
3部屋に別れながら、皆で言い合う。
蓮がドアを開けてくれたので、中に入る。
後ろで、蓮がカギを締めたのを振り返った瞬間。
腕を引かれて引き寄せられて、 真正面から、ぎゅ、と抱き締められた。
思い切り蓮の胸の中に引き込まれてしまって、どき、と心臓が飛び上がる。
「……れん……」
「――――……樹、話すの後で――――…… キスしていい?」
顔、見えない状態で、そう言われて。
――――……オレは、すぐ頷いた。
そしたら、少しだけ離されて、頬に触れてきた蓮が。
――――……じっと見つめてくる。
「――――……めちゃくちゃ、していい?」
「――――……」
……めちゃくちゃ?
――――……めちゃくちゃ……。
「……うん。良い、よ」
「――――……嫌になったら、そこで言って」
それには答える前に、蓮の顔が、傾けられて。
唇が、重なってきた――――……。
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