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第39話「ずっと」*蓮

 樹の口に氷を入れたら、真っ赤になられて。  抱き締めてしまいそうになったけれど、そこで森田が現れたから、何とか踏みとどまった。  はー。オレ、ほんと、こんなとこで、何考えてるんだろう。  ここに来て、樹と離れて、いつもみたいに話せなくて。  それだけで、こんなに、焦れるなんて。  ――――……余裕がなくて、驚く。  こんなに好きになったの、初めて、だな……。  ずっと自分の隣に居てほしいとか。  ――――……そろそろ嫌がられるかな、樹に……。  樹に氷を渡して、席にもどった。  樹は、森田の隣。ちょうど、真正面に座ってるので、目に映る。  ……近い。  森田が、くすぐったがってる樹をからかってて、樹も赤くなったりしてる。  おちつけ。 イライラするけど。  すっげー、むかつくけど。  樹に触るな、と、思ってしまうけれど。  友達だと、それを言う権利もないのは分かってる。  そもそも森田が触ってるのに、そんな意味がないのも、分かってる。  それでもモヤモヤするって、オレ、どんだけだ。  ――――……初めて、樹を見た日。  ……キレイだと、思った。何かが心をよぎった。けれど、3年間全く関わりもなかったし、オレとは、仲良くはならないタイプかなとも思った。オレみたいな奴は嫌いかなと。  ――――……だから、初めて話した、入試の日。  樹のトーンに合わせて、話し始めたっけ。  そしたら、意外と、静かなだけのタイプじゃなくて面白くて。  ――――……オレはオレで、樹と同じトーンで話す自分が、すごく楽だって事に気付いて。騒がなくても、楽しませようとしなくても、穏やかに笑ってくれる樹と話すのが楽しくて。  ――――……オレって、ほとんど、一目惚れだったのかな……。  綺麗とかよりも、樹の、その、まとう雰囲気に。  あの時、気になった感覚が、一緒に暮らしても、残っている気がする。  甘いものが好きなのが意外で。  食べてる時、幸せそうなのが可愛いと思ったっけ。  ――――……美味しいものを作って、食べさせて、幸せそうな顔をしてるのを見て、こっちまで幸せになったり。 「加瀬くん?」  隣の坂井に不思議そうに呼ばれて、現実に引き戻される。  何とか会話をしながら時を過ごしていると、急に、森田がお開きにした。  片付けて、寝る準備をして。  ――――……部屋の前で、樹と目が合う。  どく、と、胸が弾む。  それぞれの部屋の前で、おやすみと言い合って、部屋に入ったら、思わず鍵をかけた。  男2人で寝る部屋にカギなんかかける必要がない、というかけたらおかしいだろう、とは、思ったのだけれど。  樹に、触れたくて。  本当は、もっと色々話そうと思ってた。  ゆっくり、樹と、話そうと、思ってた。  けれど、2人きりになって。樹が振り向いた瞬間。  抑えられなくて、樹を抱き締めてしまった。 「……れん……」 「――――……樹、話すの後で――――…… キスしていい?」  抱き締めたままで答えを待とうと思っていたら、樹はすぐに頷いた。  樹がどんな顔してるのか見つめると。  なんだかすごく可愛くて。  我慢できなくなりそうで、思わず、 「――――……めちゃくちゃ、していい?」  と聞いてしまった。 「……うん。良い、よ」  すぐに答えてくれた樹。  ――――……樹、オレに、甘すぎるよな…… 「――――……嫌になったら、そこで言って」  言うと同時に、キスしてた。  いつもより、すこし深く。  ――――……気持ちを話すより先に、めちゃくちゃキスするなんて良くない、と、思うのだけれど。  触れてると、どんどん高揚していく。 「……蓮……」  呼ばれて、樹の見上げてくる瞳を見つめ返した瞬間。  理性が飛びそうになって。本当に、困った。 「……樹」  舌でそっと唇に触れたら、樹は、唇を開いた。  舌を入れると、樹から触れ返してくれて。  本当に――――……樹、オレに甘すぎるだろ……。  可愛くて、無理。  小さく喘ぐ声も、呼ばれる名前も、しがみついてくる手も。  可愛くて、しょうがない。  思い切り、キスしてから、  恋人になって、と伝えたら。  ――――……恋人にして、と答えてくれた樹。  その後、理性を総動員して、何とか樹の事を離した。  それぞれのベッドに寝て、とりとめなく話していたけれど、しばらくして樹が返事をしなくなって。 「――――……」  少し黙っていたら、樹の小さな寝息が聞こえてきた。 「蓮のことが、大好きだから」  さっき、樹が言ってくれた言葉。  ……なんか。  すっげえ、嬉しいな。  ――――……できたら、いますぐ、抱き締めたい。  樹、寝ちまったし。  皆が、すぐ近くに居るし。  ……できないけど。  樹。  ――――…… 数か月前までは、話したこともなかったのに。  なんでオレこんなに好きかな。  ――――……樹、男なのに。  たぶんオレ、樹以外の男には、何の反応もしないと思うんだけど。  ダメだ。樹には触れたくて、そういう衝動を抑えるのが、辛いくらい。  なんでなんだろう。  キスすると、すぐ白い頬が赤くなる。  睫毛が、震えて、涙が滲む。    ほわ、と緩んだ顔で、見つめられると、止まらなくなってしまう。  今まで何も言わず、触れるだけで過ごしてきたキスを、樹が、文句も言わずに、何も聞かずに、受け止めてくれたいた。  樹って、オレのすること、ほんとに何も否定しない。  拒否もしない。  でも、別に、それだから好きな訳じゃない。  嫌がってるのに我慢してるようなら、もちろん、やめる。  ――――……でも、そうじゃなくて。  ふわふわ、自然に、笑顔で、受け止めてくれる。  樹と居ると、安心感が半端ない。  ――――……このまま一生、こんな感じで一緒にいられるなら、絶対幸せに生きていけるんじゃないかなと、思ってしまう。  ベットを降りて、樹を見下ろす。  ――――……可愛いな……樹。  自然とほころぶ気持ち。  ずっと好きでいられる気がする。  2人でずっと、生きていけたらいいな。  そ、と頬に触れた瞬間。  ――――……あ。  寝たふりをしてる蓮に、樹が指先で触れた時のことを、不意に思い出した。  ――――……もしかして、こんな風な、気分、だったのかな……。  愛しさでいっぱいになって。  微笑んでしまった。

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