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第40話「翌朝」*樹
「――――……」
鳥の鳴き声に目が覚めた。
すごい、鳥の声、する……。
――――……ぁ、そっか。
キャンプに、来たんだっけ……。
「……目ぇさめた?」
目を開けて、ふ、と息をついたら。
優しい、声が聞こえてきた。
「――――……うん、さめた」
ゆっくり起き上がると、もう着替えていた蓮が、近寄ってきた。
「……昨日のこと、覚えてる?」
「……全部、覚えてるよ」
クスクス笑う。
「――――……樹……」
オレのベッドに腰かけた蓮が、ふ、と笑って、髪の毛に触れてくる。
よしよし、と撫でられたところで、ドアが急にがばっと開いた。
「おっはよー! 起きてるかー!」
山田だった。
ぱ、と手を離して、蓮が振り返る。
「……朝からうるせーな」
蓮の苦笑いを含む一言に、山田は。
「いやいや、なんでお前は横澤のベッドの上にいるんだよー」
意味不明な事を言ってる。
「人聞きの悪い…… 樹を起こしてた所だよ」
蓮が言いながら立ち上がって、荷物からタオルを取り出した。
「樹、顔洗いにいこ」
「うん」
蓮に言われて、オレも立ちあがった。
「山田、皆もう起きてんの?」
「佐藤と森田は今起こした。 女子部屋はノックしたら起きてたけど、準備中だって」
「了解……朝食、あの入浴施設のレストランって言ってたよな」
「そうだって。8時からだって。あと30分」
「分かった。つかお前も準備してこいよ」
「へーい。つか、加瀬だけだな、ほとんど準備できてんの」
笑いながら、山田が出ていった。
「樹、着替える?」
「……うん」
昨日用意していた服をベッドの上に一度置いて、着ていたシャツを脱いで、着替える。
「――――……蓮、何時に起きたの?」
「6時位かな」
「いつも早いなー……」
「……高校ん時の朝練の癖、抜けないんだよなー……」
高校の頃は。すごく派手な感じで、遊んでそうに見えたんだけど。
――――……まじめに部活やってたんだなあって、蓮と話すようになって知った。そういう所も。やっぱり、すごい好き、だなあ、なんて思ったりして。
ぼんやり思いながら、着替え終わって、タオルを手にしたところで。
「――――……いつき」
「ん?」
くい、と引かれて。
ドアに、軽く押し付けられた。
向こうから開けようとしても、2人の体重で、とりあえず開かない。
ぎゅ、と抱き締められて。頬にキスされた。
「おはよ、樹」
「……おはよ、蓮……」
クスクス笑って、すり、と額をすり合わせてくる蓮。
くすぐったい気分で、ほんわか、幸せな気がして笑うと、もう一度、頬にキスされた。
「いこ、樹」
蓮がドアを開けてくれたので、先に廊下に出る。
「お。樹ー。おはよー」
ちょうど隣の部屋から、森田が出てきた所だった。
「山田が、お前が加瀬に襲われてたって言ってた」
「……意味わかんない」
「ほんと、意味わかんねーな……」
後ろから出てきた蓮が、樹の後ろに立って、森田に突っ込む。
突っ込みながらも蓮が笑ってたので、森田はべ、と舌を出した。
「……加瀬が樹を可愛がり過ぎだからだろ」
「しょーがねーじゃん。可愛いし。つかお前も可愛がってるよな?」
「――――……なんか、開き直った?」
クスクス笑って、森田が蓮を面白そうに見てる。
「別に。 顔洗いにいこーぜ」
「おー」
洗面台に皆で行く。ひとつしかないので、順番に。蓮に背を押されて、オレが一番先に顔を洗うことになった。その後ろで、蓮と森田が話してる。
「森田、今日何するんだっけ」
「あー、巨大迷路いかねえ?」
「巨大迷路?」
「うん。楽しそうじゃねえ?」
「女子とかにも聞いてみよ。まあでも 面白そうだな」
「うん」
蓮と森田の会話に、頷きながら、歯ブラシをくわえた。
後ろに下がると、次、森田が洗面台。
「――――……」
蓮と――――…… 恋人……か。
――――……恋人。
めちゃくちゃ、キス――――……しちゃったなあ……。
歯を磨きながら、昨日の事、ぽーーーー、と思い出していると。
「……よな、樹?」
蓮に振り返られて、驚く。
「……あ。ごめん、聞いて、なかった」
「なに、ぼーとしてンの?」
ふ、と優しく、蓮の目が緩む。
「午前中迷路行って、時間余ったらまたどっか寄って昼食って、午後は買い物いって……そんなんでいいよな?って言ってた」
「あ、うん。いいんじゃない?」
「樹は、どっかいきたい所、ある?」
「んー……あ。昨日のお風呂でたとこに、いっぱいパンフレット置いてあったから後で見てみる?」
「ん、見てみよ」
森田が同じように歯ブラシをくわえてオレの横に並んで、今度は、蓮が顔を洗い始める。
「樹は、迷路好き?」
森田に聞かれて。
「巨大迷路、テレビで見た事しかない……」
「やった事ない?」
「うん。ずっと出られなかったらやだなー」
「……トイレ用の緊急避難口とかあるから」
「え、そんなの使っては出たくない……」
「いざとなったらってことだって」
森田は、おかしそうに笑う。
「スカイスポーツとかもあってさー、パラグライダーとか楽しそうなんだけど、一日体験って感じで六時間とかかかるみたいでさ。今回はやめとこうかなーと思って」
「空飛ぶやつ? そんなの近くにあるの?」
「あるよ。好き?」
「好きっていうか、やった事ないけど、やってみたい」
「へえ。 じゃまた来ようぜ」
「また?って、また今度?」
「うん。な、加瀬?」
森田が、蓮に言うと、蓮が、タオルで顔を拭きながら振り返った。
濡れた雫を拭き取る蓮が。なんだかそれだけで絵になって、歯を磨く手が止まる。
――――……なんでこんなに、カッコイイかな。
「樹がやりたいならいいよ」
ふ、と笑う。
「そういう事言うから、お前は 樹最優先とか、山田に言われんだぞ」
クスクス笑う森田に、蓮は、別にほんとの事だからいい、と笑ってる。
――――……蓮。なんか、あんまり気にしない事にしたのかな。ついこないだ山田に言われた時は、最優先なんかしてないみたいな感じで反論してたのに。
からかうみたいな森田と、飄々と笑いながら受け止めてる蓮との会話を、何だか不思議に聞きながら、歯を磨いていたら。
「あ。おはよー」
女子達の声がして、振り返ると、3人が来ていた。
「はよ。 あ、ちょい待ち」
森田が言って、手早く歯磨きを終えた。続いてオレと蓮もそうして。
「準備できたら飯くいにいこ。声かけて」
森田の声に女子が頷いてる。
坂井とすれ違いざま。
――――……何だかものすごい罪悪感。
坂井に直接頼まれた訳ではないけれど、蓮を好きだから協力してと山田にも頼まれてたから。
なんかごめんね、協力、できなくて……。かなり胸が痛い。
しかもオレ男だし。……いいのかな、とも、まだ思うし。
だけど――――…… オレも、蓮が大好きで。
何より蓮が言ってくれる、好きを、大事に、したいし。
でも、なんかもう……申し訳ないな、なんて思ってしまう。
うー。まっすぐ顔が見れないな……。
「樹、部屋片づけてこよ?」
「……ん」
一緒に部屋に戻ると、蓮が窓際でオレを呼んだ。
「樹、タオル貸して。ここ、かけとこ」
窓際の隅に置いてあるタオルハンガーに、蓮がタオルを並べて干してくれる。
「ありがと、蓮」
「ん。 見てみろよ、緑がキレイ」
窓際に立つと、外の緑が、朝の光で透けてて、めちゃくちゃキレイ。
「ほんとだー。 いいなー、ずっとここで暮らしたい。星もキレイだし。いいとこだね」
「そだな――――…… あーでも……」
「ん? でも?」
「……オレ、樹と2人のマンションに帰りたいな」
「――――……」
「邪魔されないとこ行きたいかな。……まあ樹が居ればどこでもいいんだけどさ。でも今は2人になりたいなー……」
なんて答えていいのか、分からない。
振り返って、蓮は答えられないオレを見て、クスっと笑うと。
「とりあえず、今日明日は、旅行楽しも」
「うん」
「な、樹」
「ん?」
「――――…… 大好きだよ、樹」
まっすぐな、視線で。蓮が、言う。
凛とした、瞳。 少しも逸らされる事がなくて、恥ずかしくなる位。
「……うん。オレも――――…… 蓮の事、大好き」
「……はは。 樹、可愛い」
くしゃ、と髪を撫でられる。
「――――……すっごい、キスしたいけど……」
その言葉の途中から。ドドドドという音が近づいてきて。
ガチャ!とドアが開いて、山田が駆け込んできた。
「女子の準備まだみてーだから、ちょっと外であそぼーぜー!」
オレの頭を撫でていた手は、足音の段階で離れていたので、特に慌てることもなく。 蓮が苦笑い。
「無理だな、これ……」
くす、と笑って、オレも頷いた。
「何して遊ぶんだ?」
蓮が山田に聞いてる。
その後ろで、ベッドのシーツを綺麗に整えた。蓮のベッドはもう綺麗で。
なんかほんと、ちゃんとしてるよなー、と感心。
ショルダーバッグに貴重品だけ入れて引っかけると、蓮と山田について、廊下に出る。
そういえば佐藤に会ってないなーなんて思って、ひょい、と隣のへ部屋をのぞき込んで。
「……きたなすぎ……」
物が散乱してるという言葉がぴったりすぎるこの空間に、思わず一言漏らすと。
「あー? 樹、何て?」
中に居た森田に、じろ、と見られるけど。
「……なんでこんな汚いの? 数時間しかこの部屋に居ないのに……」
「おはよー、樹―。なー、汚いよなー」
佐藤が面白そうに笑ってる。
「つかお前のものも、いろんなとこに散らばってるけど」
森田が佐藤に突っ込んでる。
「樹どした?――――……って、きたねーな」
後ろから現れた蓮が、オレとおんなじことをぼそ、と呟く。
「あーやだ、お前ら。 おんなじこと、呟くな」
森田が嫌そうな顔で、オレと蓮を若干睨んでくるけれど。
「この短時間でここまで乱せるのが、逆にすげえよな」
蓮は面白そうに笑ってる。
「まあいいや。ほっとこ、樹。外いこうぜ」
「……そ、そう、だね」
「山田とオレら、外にいるから、準備できたら来いよー」
蓮が声をかけて、部屋を出てく。
……とりあえず明日出る前に、念のため、この部屋、片付けに来よ。
そんな決意とともに、蓮の後について、外に出た。
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