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第41話「迷路」*樹
巨大迷路を前にして、皆それぞれ、うわー、と声を上げている。
「うわー……これかー?」
「思ってたより、すごいなー……」
木で作られた、巨大迷路。
ど真ん中に、やぐらのようなものが建ってるの見える。
「もっとちゃちいもの、想像してた」
佐藤が苦笑いしてる。
「下から覗きながら進めちゃうようなやつ」
森田が、金取るのにそんな訳あるか、と笑う。
下からも覗けないし、ジャンプしてもとても届かない高さの木の壁がある。
「ゴールできるまで、平均1時間で、遅いと2時間以上だって。 飲み物持って入れってさ」
蓮が説明を読んで、そんな風に言ってる。
皆で入り口の自販機で飲み物を買って、集まった。
「これってやっぱり、1人ずつ入る?」
「当たり前だろ」
「あの真ん中のやぐらに立てば、上から皆の事は見れるのかな」
「だろうな」
「……まあ無理だったら脱出用の出口もあるしな。無理しないようにだな」
山田と森田の会話を聞いて、蓮が言うと、皆頷いた。
「だな」
「じゃーしゅっぱーつ」
入口もいくつもあって、皆、それぞれ散らばっていった。
「じゃね、蓮」
「ん。出口でな、樹」
「うん」
一瞬視線を合わせて、蓮と別れた。
意外と広い。……というか、広すぎ。
これ、めっちゃ敷地広いんだろうなー……。
入って20分位。1回、佐藤には会ったけど、すぐ別れて後は、誰にも会わない。ゴールしたら、メッセージを送る事になってるから、まだ今のとこ、誰もゴールできてないみたいだけど。
だんだん、焦ってきた。
上下見れず、同じ茶色の板ばかり。
行き止まりで戻っても、左右どっちか分からなくて、同じ所を回ってる気もしてしまう。
――――……ほんとに2時間出られなかったりして。
やだなー、遅い記録を更新したりしたら……。
急ぐのも疲れてきたので、普通に歩き進む。
また目の前に、「×」の書かれた壁。
「――――……またいきどまりかー……」
思わず、ぼそ、と呟いた。瞬間。
「樹、そこに居る?」
「あ。蓮?」
板の向こう側に、蓮の声。
安心して、嬉しくなってしまう。
「誰かに会ったか?」
「佐藤に会ったけどすぐ別れて、それから誰にも会ってない」
「オレも。 意外とこれ、広すぎるな……」
「うん」
「……くそ。板、邪魔。そっち行きたい」
蓮の一言に、ぷ、と笑ってしまう。
でも、オレも、そうだけど。
――――……蓮のとこに行きたい。
「樹、やぐら目指せる?」
「一応さっきから1回のぼろうと思って目指してるんだけど、行き止まりばっかりで、たどり着けないんだよね」
「そっか…… じゃあ、ダメもとでさ、樹」
「ん?」
「こっち歩いてみて。こっち」
「うん」
蓮の声がするほうに、一緒に進む。
道の分かれ目に立って、立ち止まる。
「蓮、まっすぐと右に別れるよ」
「そこで道、別れるか……」
「うん」
「……オレもここで道別れるっつーか……反対側しか行けないな……じゃあさ、樹、そこで1分待ってて。オレがそこに辿りけなかったら、動いて良いよ」
「わかった」
スマホの時計を眺めて。そろそろ1分かな、という時。
「あ、樹。居た」
後ろから声がして。
振り返るより早く、一瞬、ふわ、と抱き締められてしまった。
「見つけた」
「え。蓮、後ろから来たの? どーやって?」
振り返って蓮を見上げる。
「さあ、よくわかんね。 樹と反対にしか行けなかったから、そっちからまわって、なるべく、こっち方面に進んだら、ここに出た」
「すごいなー、蓮。さすが」
「まあ、たまたまだけど」
クスクス笑った蓮に、よしよし、と撫でられてしまう。
……ほんと、さすが。
こういうとこ。
なんか、ほんとにカッコいい。
普通だったら、やっぱり会えなかった……で終わって、
結局出口で会う事になると思うのに。
なんで見つけてくれちゃったりするかな……。
しかも、抱き締めてくれちゃうとか、さ。
なんだろうな。この何でも、何気なく出来ちゃう感じ。
ほんと、カッコいい、な、蓮。
「樹、どした?」
「ううん、なんでもな……」
あんまりぼんやりとしてたのに気づいて、慌てて振り仰いだ瞬間。
ちゅ、とキスされて。びっくりして口を押える。
「……見えないよ。大丈夫」
クスクス笑って、蓮が言う。
「いこ、樹」
くい、と手を引かれる。
「誰かと会ったらすぐ離すから。それまで」
手を繋がれて。
一緒に歩く。
「――……」
繋がれた手をきゅ、と握ると。
振り返って、蓮が、ふ、と笑った。
大好きだなー……蓮。
前を歩く、少し上にある、蓮を見上げる。
ふんわり、あったかい気分になりながら。
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