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第42話「安心」*樹
しばらく進んだ所で、いったん蓮が止まった。
スマホを見て、「まだ誰もゴールできてないな」と苦笑い。
「あのやぐらに立ってみよ」
「うん」
再び、蓮がオレの手に触れて、引いて歩き始める。
さっきまで、1人で少し焦ってたのにな。
蓮と居ると、安心する。
2人で一緒に進んでいくと、しばらくして、やぐらに辿り着いた。
「着いたー。すごい。 蓮いなかったら多分、オレ、ここ来れなかった」
蓮の進む方にただついてきただけ。何回か、蓮と違う方に行こうとしたりしてたから、思った通りにそっちに行ってたら、辿り着いてないはず。
木のはしごを上って、やぐらに上がると、一段高くなる台の上に立った。
皆の頭が、ひょこひょこ見えてる。
「おーい」
蓮が声を出すと、聞こえた皆が、ぱっと蓮を振り仰いだ。
朝イチだからか、まだ空いてて、このグループ以外は、家族連れが数組見える程度。
「あ、加瀬ー! 樹もいんのか」
森田が遠くで叫んでる。
「ちょっとさー、オレこっからどっち行けばゴールなのかそっちから指示だしてよー」
佐藤は割と近くにいるけど、そんな事を言ってる。
「指示出すほど、こっちも見通し良くないよな」
「うん。意外と見にくい……」
行き止まりなのかどうかとかは、上からは良く分からない。
頷くと、蓮が笑いながら。
「見通し悪いから無理。 自力でがんばれー」
蓮のそんな声に、何やら文句なのか何なのか、色々聞こえるけど。蓮は手を振って、とん、と高い段から降りた。
「樹、もうオレらはゴールめざそ」
蓮が、楽しそうに笑う。オレもその段から降りて、蓮の後をついてはしごを降りる。
「うん。んー、でも、結局どっちか分かんなくない?」
「樹、多分こっち。ここからゴールまでは、何となく分かったかも」
「え、ほんと?」
「ん」
蓮について歩いていくと。
数分後。
蓮はやっぱりすごいなと、しみじみ実感。
「ほんとに着いた。蓮すごい」
「なんとなく、だったけどな。やぐらからなら、ゴール割と近かったし」
「そんなことないよー、オレも見てたけど、分かんなかったよ」
「まあ、たまたまうまく通れたって事で」
蓮は大したことないように言うけど、オレ絶対無理だったし。
そもそも皆、まだまだ出て来れそうになかったし。
時計を見ると、時間は40分ちょっと。
やっぱり、すごく速いとおもう。
「オレんとことか来てなければ、蓮、最速記録とか出せたんじゃないの?」
「樹に会えて嬉しかったから、最速じゃなくて全然いいよ」
蓮はクスクス笑いながら、そんな事をさらっと言う。
ほんと、さらっと。言うな、こういう事。
1人、何だか嬉しいような、恥ずかしいような、ムズムズしてると。
蓮は、スマホを取り出した。
「樹とゴールしたぞ。 がんばれ」
蓮がそう送ったのを見て、蓮のメッセージの後ろに、オレも、ガンバレスタンプを押してみた。
皆から、「えー」だの、「がーん」だの、そんなスタンプが送られてくる。
ぷ、と笑いながらスマホをしまうと、蓮はオレの腕を引いた。
「あそこ、座ってようぜ、樹」
出口の近くのベンチに2人で座って、皆を待つ事にした。
「な、樹。あとでさ、買い出し行くけど、 夜、何か食べたいものある?」
「夜? バーベキューじゃないの?」
「そうなんだけど、2日続けて焼きそばも微妙だし、何か他のもので」
「うーん、何だろ……お腹にたまるもの?って事?」
「ん」
「鉄板で焼けるものでしょ?」
「んーそうだな」
「鉄板かー。焼きうどんとか……なんだろ。あ。お好み焼きは?」
「お好み焼きか。 ……いいかも。余った野菜つっこめるし」
「うん。食べたい」
「おっけ、決まり。デザートは?」
「デザート? …… 冷凍庫ってちっちゃいんだっけ?」
「まあでもそこそこ入るよ。 ああ、アイス?」
「うん、アイスたべたい」
「他は? なんか、他に食べたいものある?」
次々聞かれて、苦笑い。
「えーと…… って、蓮」
「ん?」
「オレだけが食べるんじゃないし、皆に聞かないと」
クスクス笑い出したオレに、蓮は首を振った。
「いーのいーの。昨日の感じだと、大体オレが作るんだし。オレは、樹の食べたいものを作りたいし。あいつらはきっとなんでも喜ぶと思うから」
「――――……」
蓮のそんな言葉に、ふ、と微笑んでしまう。
「ん?どした?……可愛い顔して」
クスクス笑う、そんな蓮のセリフには、苦笑いしつつ。
優しい顔してこっちを見てる蓮を、ただ見つめ返してしまう。
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