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第50話「ふわふわ」*樹
「お前ら鍵かけて何してたんだよ」
「寝てたんだよ……お前らうるさすぎ」
森田のツッコミに、蓮が超冷静に答えてる。
オレは下手に喋ったらバレてしまいそうなので、黙ってた。
「もういいから、お前らはまた炭に火ぃつけてこいよ。燃えるなよ?」
「燃えるか!」
蓮に言われて、言い返しながら、皆が外に出て行く。
坂井と南が昨日と同じく中に残って、オレと蓮と一緒に野菜とかの下準備を始める。
「女子は寝てたのか?」
「寝てないけど、ベッドに転がって喋ってた」
蓮の言葉に、南が答えてる。
「加瀬と横澤くんはぐっすり寝てたの?」
「うん」
坂井の問に蓮が一言、そう言って頷いてるのを聞きながら、オレはまな板にエリンギをのせた。
これは昨日切ったから、もう余裕だもんね。
鼻歌気分で、ゆっくりと包丁を入れる。
「お。樹、エリンギはもう切れるようになった?」
蓮がクスクス笑いながら隣に立つ。
「任せて」
「任せる任せる」
くく、と笑いながら、蓮が隣で、手際よく他の野菜を切っていく。
「坂井と南、お好み焼きの用意してくれる?」
蓮の言葉に頷いて、2人はとなりでボールに粉を入れてる。
蓮はキャベツをざく切りにして、残りをみじん切りにし始めた。
思わずエリンギそっちのけで、蓮の手元を見つめてしまう。
「何、樹?」
くす、と笑われて。
「すごいなー、と思って。手が見えない」
「……見えないって事はないだろ」
「早くて見えない」
「何だそれ」
そんなやりとりをしてクスクス笑いあって。
オレはエリンギの続きを切り始める。
……なんか、蓮とは切るスピードが全然違うんだよな。
もうちょっと家でも手伝おうかな。
苦戦しながらも、まあ大体の感じでエリンギを切り終わった。
蓮がキャベツを置いた上に、エリンギを並べる。
「出来たよ」
「お。上出来」
蓮の笑顔に、嬉しくなって頷きつつ。
「あと何か切る?」
そう言うと、蓮はちょっと待ってて、と言いながら、みじん切りにしたキャベツを、2人の所に持っていく。
「キャベツ、これ混ぜて?」
「了解。加瀬、ほんとイイ旦那になりそ」
「そう?」
南の言葉に蓮はクスクス笑いながら、すぐオレの隣に戻ってきた。
「樹、とうもろこし切れそう?」
「昨日、蓮食べれなかったもんね。 ん、切ってみる」
「ん」
まな板にとうもろこしを並べてくれる。
「加瀬、混ぜたよ」
南がボールを混ぜながら近づいてくるのを振り返って、ありがと、と受け取る。
「じゃあ、これ冷蔵庫入れとくから、この野菜外に持ってってくれる? オレらも肉持ってすぐ行くからもうここ、良いよ」
りょうかーいと、言いながら、2人は野菜を持って、先に外に出て行った。
「切れそう? 樹」
「うん。もうこれ、ざく、て切っていいの??」
「いいよ。力、入れて。転がらないように気を付けて」
「うん」
ざく。
包丁が中に入る。
「おお。意外と、さくっと切れるんだね」
「ん」
クスクス笑う蓮の笑顔が、楽しそうで。
こっちまで、嬉しくなってしまう。
「機嫌いいね、蓮」
と笑うと。
「当たり前だろ」
クスクス笑って、意味ありげに見つめてくる。
……さっきめちゃくちゃくっついてたもんね。
オレも、なんかさっきから、気分がフワフワしてるし。
「樹」
「――――……」
呼ばれて、蓮を見上げたら、そっと、キスされてしまって。
じっと、蓮を見つめてしまう。
「……すげー好き」
「――――……」
左にトウモロコシ、右に包丁持ったまま。動けず。
緩む瞳に見つめられると、かあっと熱くなる。
「蓮って――――…… 恥ずかしいよね」
言うと、ぷ、と蓮が笑う。
「慣れて?」
「……いつになったら慣れるかなぁ……」
言うと、蓮は、まあ慣れなくても可愛くていいけど。とまた笑う。
オレがまた言葉にならず黙っていると。
「慣れて、返してくれてもいいよ? どっちでも可愛い」
なんて言われて。
もう、全然返せず。
とりあえず、トウモロコシを、さっくり、切っておいた。
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