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第51話◇
肉とトウモロコシとか、諸々持って外に行くと、皆がこっちを振り返った。
「遅ーい、腹減ったー!」
「ごめんね」
……だって、蓮が。
――――……キス、なかなか、離してくれないんだもん。
……樹可愛いって、言いすぎだし。
思わず少し隣の蓮をちらりと見つめてしまうと。
「ん?」
蓮はクスクス笑いながら、見つめ返してくる。
「……ほら。遅いって言われちゃったし」
「全然大丈夫だって」
ふ、と蓮は嬉しそうに笑う。
どき、として。蓮に弱すぎる自分にちょっと呆れつつ。
皆の所に降りていく。
「今日はオレが焼くね」
オレが言うと、「じゃあオレも」と言い出した蓮を、南が止めた。
「加瀬は昨日も焼いてたし、今日はあたしが焼くよ」
「いいよ。オレ焼くの好きだし」
「じゃあ後で替わってもらうから、今は休んでていーよ」
そんな南のセリフに、蓮はちら、とオレを見るけど。
別に焼くの絶対一緒とかは思ってないし。
いこ、と頷きながら、南と一緒に、皆と少し離れる。
野菜を並べて、肉を焼きながら、ひっくり返していると。
「横澤くんてさ」
「うん」
「加瀬とほんとに仲良いね」
「……そう見える?」
「見える見える」
南はクスクス笑う。
「加瀬が、横澤くんのこと大好きなんだろうなーって思うよ」
「んー……そう見える?」
「見える」
南の即答に苦笑いしつつ。
「逆かも」
「ん?」
「蓮が、ってより――――…… オレが、だと思うんだけどな」
「――――……あ、そう、なの?」
「うん」
くす、と笑って。
南に視線を向けて、頷くと。
「――――……」
少し黙った南は、ふふ、と笑った。
「加瀬がひっついてるんだと思ってた」
「――――……森田とかにもそう言われたんだけど。むしろ逆だと思うんだけどなあ……」
「……まあ。逆、ではないと思うけどねー」
「ん?」
南が可笑しそうに笑いながら視線を向けた方向を見ると。
蓮がこっちに歩いてきてて、オレの隣に立った。
「やっぱりオレも焼く」
菜箸を手に取りながら、蓮がオレに笑いかけて。
南はクスクス笑い出した。
「休んでていいよって言ったのに」
「別に休まなくて良いし。ありがと、南、オレ焼くよ」
蓮の言葉に、南はぷ、と笑って。肉の皿を蓮に渡した。
「じゃあこれお願い。 あたしが休んでくる」
言って、南が皆の元に戻っていく。
「昨日長い事焼いててもらったし、良かったのに、蓮」
「何で? 一緒に焼きたいじゃん」
「――――……うん。そだね」
蓮の言葉はまっすぐで。
――――……つい、微笑んでしまう。
「あ。トウモロコシ、下茹ですんの忘れた。茹でてくるよ」
「一緒に――――……無理か、オレ、ここ、焼いてるね」
「ん。お湯沸けばすぐだから」
「蓮がそういうの忘れるの、珍しいね?」
「んー……まあ、ね」
「待ってるね、いってらっしゃい」
そう言って、見送ろうとしたら。
蓮が、クスクス笑いながら、オレだけに聞こえるような声で。
「樹にキスしてて、そっちに集中してたから」
「――――……っ」
蓮の言葉と視線に、かっと顔に熱が走る。
ふ、と笑って。「あとでまたな、樹」なんて、蓮が言う。
何も返せず、蓮を見つめてると、クスクス笑いながら、蓮が歩いて行く。
皆の所で止まって、何か言ってる。
すぐに、佐藤や森田がこっちに向かって歩いてきて。
「加瀬が、樹と一緒に焼いててだってー」
「焼けたやつ、むこうに持ってく」
「うん。ありがと」
2人と楽しく話しながらも。
さっきの蓮の、楽しそうな顔が、消えない。
――――……なんだかな。もう。
ほんと。
……大好きで。
――――……なんだかな。
「樹、楽しそう」
隣に居た佐藤が、急にオレにそう言った。
「え?」
あ。オレ。――――……楽しそうだった?
やば。顔に出てた?
そんな風にちょっと焦りながら、ふ、と顔を上げると、佐藤が笑いながらオレを見てて。
森田は、焼けたものを持っていって、向こうで騒いでる。
「樹、こういう旅行とかさ、好き?」
「ん? あ、旅行?」
そう言うと、佐藤はクスクス笑いながら、オレを見た。
「オレさ、結構樹は、最初から話しやすかったんだけどさ」
「うん?」
「こういう旅行とかはあんまり好きじゃないかなあと思ってたんだよね。だから、来るって聞いて、嬉しかったし。――――……そうやって楽しそうだと、ますます嬉しいかも」
「あ、うん。……オレも来るまでは、ちょっとどうしようかなと思ってた」
「あ、やっぱり?」
「でも楽しくて。――――……こういうのも、いいなと思ってるよ?」
「そっか、良かった」
さっきは、蓮の事。考えてたんだけど。
……楽しそうって。ちょっと、笑ってしまうけど。
旅行来て、皆と絡むのも、遊ぶのも、楽しいなって、思う。
――――……多分、これも、蓮が居なかったら、そもそも来てないから。
蓮と居て、世界が、広がるのが。
楽しいなと、思う。
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