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第63話「いつ会っても」*樹

「じゃあ、おやすみ」  花火を終えて片付けてきてから、皆と別れた。  ドアを閉めて、蓮が鍵をかけてから、隣に居るオレを見つめる。 「……やっと二人きりだな」  そっと肩に回ってきた手に、蓮を見上げようとしたら、すぐにぎゅ、と抱き締められた。 「――――……蓮……」  なんか……。  ……すごく、幸せかも……。  男同士とか……普通なら気にしなきゃいけないのかもしれないけど。  蓮と居るのが自然すぎて、穏やかで。  触れるのも、キスするのも、なんだか、自然なことみたいに思えてしまう。  なんか、引き寄せられるみたいに、蓮に目が行く。  声が聞きたくなるし、話したいし。 「ベッド行く?」 「うん」  腕を引かれて、二人でベッドに入って、座ったまま、顔を見合わせた。 「早かったね、二泊」 「そうだな……楽しかったな」 「うん」  笑顔で返しながら頷く。 「蓮は、友達と旅行とか、いっぱい行ったこと、あるの?」 「無いよ。あー……部活の、合宿とかはあるけど」 「そっか」 「高校ん時、友達とは泊りには行かなかったな。キャンプとかは子供の頃とかに家族で行ったけど」 「友達と泊まったりは蓮でもないんだね」 「蓮でもって」  クスクス笑って、蓮がオレの腕を引く。  ぎゅ、と抱き締められて、なんだか嬉しい気持ちがくすぐったくて、ふ、と顔が綻ぶ。 「……ん、なんとなく、蓮は色んなこと、してそうな気がしただけ」 「普通の高校生だったけど」  笑いを含んだ声に、普通かなあ?と、顔を見上げる。 「樹から見て、普通じゃなかった?」 「んー……すごく目立ってたから、蓮」 「そう?」 「うん。大人っぽかったし」 「オレ、結構騒いでたから、ガキっぽくなかった?」 「そんなこと無いよ? 何回も言ってるかもだけど……華やかで人気があって、目立つって感じかなあ……」  あの頃、人にいっぱい囲まれてた蓮を思い出して、ふふ、と微笑んでしまう。  まあでも、今もそうなんだけど。そこにオレが混ぜてもらってる感じ、かなあ? あ、でも、ふたりで 居てくれることが、すごく多いけど。 「あの入試の日にさ、あのバスに乗ってなかったら、蓮とオレって話さないで終わったのかなあって思うと……なんか不思議だね」  こんな風に、好きになることも、無かったんだろうな、なんて思いながらそう言うと。 「んー……どうだろ」  と、蓮が言って、オレを見つめる。 「……どうだろって?」 「大学に入ってから、話しかけたかも、オレ」 「……そう??」 「多分。……高校ん時はまったく接点、無かったから無理だったけど」 「……んん? 蓮って」 「ん?」 「オレと、話してみたいなーとか、思ってた??」 「……思ってた、かも」  そうなの? それは初耳かもしれない。 「綺麗な男がいるって、友達に言われて、樹を見てって言われたんだよ、オレ。そん時は、男が綺麗とか関係ないしとか、言ってたんだけど、実際、見てみたら……」 「――――……」 「確かに綺麗、て思って……それまで見たこと無かったのが不思議だなーと思ったのを覚えてる」  そんな言葉に、ぷ、と笑ってしまう。 「知らない男の顔なんて見ないよね」  クスクス笑ってオレがそう言うと、蓮は、苦笑い。 「でも、それからは覚えてて知ってたから……入試の日も、名前、呼んだ」 「そうなんだ」  見つめ合うと、蓮はふ、と微笑む。  「だからあの日会わなくても、大学で話しかけたんじゃないかなって思う」 「……じゃあ、あの日、あそこで会わなくても、オレ達、話してた?」 「きっとそうだと思う」 「……そしたら、一緒に暮らしたかなあ??」 「どうだろな? そん時もう一人暮らし始めてたら、すぐには一緒にってならなかったかもしれないけど……」  そっか、なるほど、と頷いていると。  蓮は、クスクス笑い出して、オレの頬に触れた。 「いつ話し始めたとしても、一緒になったと思わないか?」 「……あの日じゃなくても、てこと?」 「そ。いつから話してても、オレは樹のこと、好きになったと思うし」 「そう、だね。オレも、蓮と話してたら、好きになると思う……」 「だろ?」  蓮が嬉しそうに言って、笑いながら、オレの頬にキスしてくる。  そっか……あの日、偶然会ったから、じゃなくて。  ……いつ会っても、蓮とこうなってたのか。 「なんかそれ……すごく、嬉しいかも」  顔が勝手に、綻んで。  そう言ったオレに、蓮が、優しく笑って。  そのまま、ゆっくり、唇が、触れた。  

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