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「旅の終わり」*樹
オレがハートはないなと、その考えを打ち消して、んー、としばらく考えていると、蓮がオレと視線を合わせた。
「月と星とかは? 描くのも割と簡単だし」
蓮がクスッと笑いながら言ってくる。
「それ、いいかも。並べたら、星の出てる月夜って感じになるってこと?」
「まあ、そうなればいいかなって」
「頑張って描こ」
「じゃあ、樹、月と星、どっちがいい?」
月と星……。
「月、かなあ……? 三日月とかなら描けるかも?」
「よし。じゃあそっちは任せた」
「うん。頑張る」
かくして、二人で、月と星の模様を描いていく。
紙に描くのとはだいぶ違う感覚。……楽しいな。焼けたらどうなるんだろ。
蓮は星をいくつか描いているんだけど、月は、いくつもあるとおかしいし。
んー、なんか三日月ひとつだと、寂しい気がする。
「あ、そうだ。ね、蓮」
「ん?」
「桜の花、描いてもいい?」
「桜?」
「うん。前さ、一緒にお花見した時、月と桜、綺麗だったでしょ」
あの桜か、と微笑む蓮に、オレは、絵の見本として置いてある桜のイラストを指差す。
「こんな感じだったよね」
「ん。そうだな――じゃあこっちも、裏面の方に桜描いておこうかな」
てことで。
二人で、月と星をそれぞれ。それから桜も。なんかいい感じに描けて、みせあいっこして、ふふ、と笑っていると。
周りの皆も描き終えて、作業終了。
焼きあげてから送ってもらう手続きをしてから、お礼を言って出口から外に出た。
「あー結構疲れた!」
山田が、んーと背伸びをしながら言った。
「結構神経使う作業だったよなー」
「確かに」
森田と佐藤も言って、同じように体を動かしてる。
「オレ、なんか毎週でも来たいかも……」
思わずそう言ったら、皆が「えっ」と険しい顔をしてる。そんな顔しなくてもいいじゃん、と苦笑したら、蓮が隣でクスクス笑いながら。
「オレも。樹に一票。学校帰りとかに来たいよな」
「うん、来たい」
蓮の顔を見ながら頷いてると、女子達も「いいねー」なんて笑ってる。
男子は皆、一年とか二年に一回とかでいいな、とか言ってる。ふと気付いて。
「ていうか、皆ももうやりたくない、って感じではないんだね」
クスクス笑いながらそう言ったら、皆、ちらっとこっちを見て、まあそうだな、みたいに苦笑してる。
「どんなふうに焼かれて届くか楽しみだね」
「だな」
蓮が頷くと、皆も笑顔で頷いた。
「意外と時間かかったから、もうこっちでなんか飯食いに行って、それで高速乗ろうぜ。何食べたい?」
森田が言うと、皆がスマホを取り出して、食事を検索し始める。隣で蓮も見始めたので、オレはなんとなく、それを覗き込む。
「蕎麦とかどう?」
蓮の言葉に、「天ぷらおいしいとこがいい」と女子たちが騒いでる。なんこか候補が出たけど、帰り道沿いのところに決まって、また車に乗り込んだ。走り出す車の中で、外の風景を見ながら、なんとなく、いろいろ思い出す。
この旅行に来て、皆と相談しながら動くのが結構楽しいって、知ったかも。
オレにとっては、結構大きな収穫。
あと、知り合ってからは、ずっと二人ですごすことが多かったから。
二人じゃない時の蓮を、すごく見れた。これも、収穫っていうかも。
まあ、なんとなくは、高校の時も見えてたし、大学でも見れるんだけど。やっぱり泊りがけで色んなことをしてると、もっとちゃんと見える。
誰にとっても、頼りになる人なんだよなぁ、と改めて思った。
――あと。
……ちょっとヤキモチ、みたいなのもあるんだなぁって。
オレのことで、妬いてくれたりするんだなーって知れて、嬉しかったな。
もうすぐ、この旅、終わる。
ちょっと寂しい気もするけど。また蓮との二人の生活に戻る。
――――この旅に来る前とは、きっと、違うはず。
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