68 / 68

「旅の終わり」*樹

 オレがハートはないなと、その考えを打ち消して、んー、としばらく考えていると、蓮がオレと視線を合わせた。 「月と星とかは? 描くのも割と簡単だし」  蓮がクスッと笑いながら言ってくる。 「それ、いいかも。並べたら、星の出てる月夜って感じになるってこと?」 「まあ、そうなればいいかなって」 「頑張って描こ」 「じゃあ、樹、月と星、どっちがいい?」  月と星……。 「月、かなあ……? 三日月とかなら描けるかも?」 「よし。じゃあそっちは任せた」 「うん。頑張る」  かくして、二人で、月と星の模様を描いていく。  紙に描くのとはだいぶ違う感覚。……楽しいな。焼けたらどうなるんだろ。  蓮は星をいくつか描いているんだけど、月は、いくつもあるとおかしいし。  んー、なんか三日月ひとつだと、寂しい気がする。 「あ、そうだ。ね、蓮」 「ん?」 「桜の花、描いてもいい?」 「桜?」 「うん。前さ、一緒にお花見した時、月と桜、綺麗だったでしょ」  あの桜か、と微笑む蓮に、オレは、絵の見本として置いてある桜のイラストを指差す。 「こんな感じだったよね」 「ん。そうだな――じゃあこっちも、裏面の方に桜描いておこうかな」  てことで。  二人で、月と星をそれぞれ。それから桜も。なんかいい感じに描けて、みせあいっこして、ふふ、と笑っていると。  周りの皆も描き終えて、作業終了。  焼きあげてから送ってもらう手続きをしてから、お礼を言って出口から外に出た。 「あー結構疲れた!」  山田が、んーと背伸びをしながら言った。 「結構神経使う作業だったよなー」  「確かに」  森田と佐藤も言って、同じように体を動かしてる。 「オレ、なんか毎週でも来たいかも……」  思わずそう言ったら、皆が「えっ」と険しい顔をしてる。そんな顔しなくてもいいじゃん、と苦笑したら、蓮が隣でクスクス笑いながら。 「オレも。樹に一票。学校帰りとかに来たいよな」 「うん、来たい」  蓮の顔を見ながら頷いてると、女子達も「いいねー」なんて笑ってる。  男子は皆、一年とか二年に一回とかでいいな、とか言ってる。ふと気付いて。 「ていうか、皆ももうやりたくない、って感じではないんだね」  クスクス笑いながらそう言ったら、皆、ちらっとこっちを見て、まあそうだな、みたいに苦笑してる。 「どんなふうに焼かれて届くか楽しみだね」 「だな」  蓮が頷くと、皆も笑顔で頷いた。 「意外と時間かかったから、もうこっちでなんか飯食いに行って、それで高速乗ろうぜ。何食べたい?」  森田が言うと、皆がスマホを取り出して、食事を検索し始める。隣で蓮も見始めたので、オレはなんとなく、それを覗き込む。 「蕎麦とかどう?」  蓮の言葉に、「天ぷらおいしいとこがいい」と女子たちが騒いでる。なんこか候補が出たけど、帰り道沿いのところに決まって、また車に乗り込んだ。走り出す車の中で、外の風景を見ながら、なんとなく、いろいろ思い出す。  この旅行に来て、皆と相談しながら動くのが結構楽しいって、知ったかも。  オレにとっては、結構大きな収穫。  あと、知り合ってからは、ずっと二人ですごすことが多かったから。  二人じゃない時の蓮を、すごく見れた。これも、収穫っていうかも。  まあ、なんとなくは、高校の時も見えてたし、大学でも見れるんだけど。やっぱり泊りがけで色んなことをしてると、もっとちゃんと見える。  誰にとっても、頼りになる人なんだよなぁ、と改めて思った。  ――あと。  ……ちょっとヤキモチ、みたいなのもあるんだなぁって。  オレのことで、妬いてくれたりするんだなーって知れて、嬉しかったな。  もうすぐ、この旅、終わる。  ちょっと寂しい気もするけど。また蓮との二人の生活に戻る。  ――――この旅に来る前とは、きっと、違うはず。

ともだちにシェアしよう!