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第10話◇雨と風

「啓介ー」 「ん?」 「今日掲示板見た?」 「あーまだ」  掲示板というのは、職員室にある、部活の掲示板。  1カ月の予定は出ているのだけれど、当日中止になったり、時間が短くなったりする時は顧問の先生がそこに記入する。  大体皆、昼までには確認する事になってる。  急な予定変更なんてほぼ無いので、忘れる事の方が多いけれど。 「なんか午後、暴風警報が出そうなんだってさ。だから、中止だって」 「ああ…… 今もすでに風めっちゃ吹いてるもんなあ?」 「うん。……ちぇー、今日、試合するって先輩言ってたのに」  雅己、つまらなそう。  ほんまバスケ好きやなー。 「啓介と違うチームにしてくれるって言ってくれてたんだよー、絶対勝ってやるって思ってたのに―!」 「……」  あ、そういう事か。  苦笑い。 「――――……一緒帰るか?」 「え? あ、うん。帰る」  雅己と啓介の家は、方向的には一緒。  雅己の方が、少し先まで進む。  いつもはお互いチャリ通学だけれど、今日は念のため、歩きで来た。 「じゃあとでなー」  雅己がバイバイと手を振りながら教室を出て行く。 「……ほんと、あいつと仲いーな」 「ん?」 「毎日見るけど。啓介んとこで」 「あいつ、啓介の事大好きだよなー」  クスクス笑いながらそんな風に言う、クラスメート達に苦笑い。  ――――……まあ。実際のとこ。  ……オレの方が、めっちゃ好きやから。  いっつも、めちゃめちゃ大事にしとるからなー……。  ……あいつがオレを好きなんは、ある意味当然。  雅己はオレの事、友達として、大好きやし。頼りにもしてくれるし。  ――――……そりゃそうやろうけど。  本当に、心からめちゃくちゃ好きなのは、オレやからなぁ……。  そんなことを思いながら5.6時間目を過ごして。  担任がホームルームを終えた瞬間。  がら、と扉が開いた。 「けーすけ、帰ろ! 雨も風もヤバいからすぐ帰ろ」 「んー」  クラスメート達に別れを告げて、雅己の隣に並ぶ。 「すげーヤバいよ? さっき、なんかが空飛んでった」 「そっか。気を付けんと」 「傘させないね」 「しゃあない。 雨はそこまでやないから、傘ささんでいこ」 「うん」  2人で靴を履き替えて、一緒に歩き出す。 「っ冷たすぎ……」 「降ってんの少しやのに風で当たるからな……」 「っと! うわ、オレ、今浮いたんだけど!」 「何でめっちゃ笑顔やねん」  楽しそうな雅己に、苦笑い。 「だって体浮くとか、無いじゃん、なにこれー」  あははー、と楽しそうだけれど、そのまま道路に出られても困る。 「雅己、手」 「ん」  危ないからと思って何も考えずに言って、捉えた手だったけれど。  繋いでから、手を繫いでしまった事に、気づいた。 「――――……手ぇ、熱つ」  ドキ、として。  そのドキドキを振り払いながら、そう言ったら。 「……ん?……ああ、オレよく子供みたいて言われる」 「……誰にや」 「え? 友達?とか……? 触ると言われるけど」  ……ぺたぺた触んなや。アホ。 「うわーほんと、皆無事帰れてるかなー、電車動いてんのかなあ」 「お前はとりあえず自分のこと心配せえや」 「はは。まあそうだけど」  しばらくして、オレのマンションに到着。 「じゃな、啓介、頑張って帰る―」 「帰ったら連絡せえよ」 「うん、無事ついたらすぐ入れるー」  と歩き去ろうとしている雅己に。  1秒2秒考えて。 「……雅己!」 「ん?」  雅己の手を、引き止めて、ぐい、と引いた。 「風おさまるまで、うちに来いや」 「え。……でもびしょびしょだし」 「服貸すし、シャワー入ってええし。制服乾かしてやるから。どーせ今日家族仕事いっとるし」 「――――……」 「夕方には収まるて言うてたやろ。寄ってけ。心配やから」 「……ん、分かった。ありがと」  素直な笑顔の雅己をつれて、 家に入った。     月日が流れて♡ +++++ 「けーすけ、また空をなんか飛んでったぞー」  今日も、暴風。面白そうに、窓から外を見ている雅己を見ていたら、何となく、あの日の事を思い出した。  家に誰も居ないのは良かったけれど、  一緒にシャワー浴びようだの、オレの服を着てちょっと大きいなー、て言ったり。無責任な、無自覚な、可愛いあほ雅己の、あほ発言に、かなり、苦戦した記憶がよみがえる。  生殺しな感じがひどすぎて、  家に入れなきゃよかったとも、思ったんやったなあ……。   「………」  窓際に立って、なにやら騒いでる雅己を、後ろからぎゅっと抱き締める。 「ん? どした?」  笑みを形作った唇で、振り返ってくる。 「――――……雅己……」  ちゅ、と口づけると。  何急に?と首を傾げつつも、雅己はゆっくり、瞳を伏せた。  ……ほんま、よかった。  こういう関係になれて。  あのままずっと触れる事が出来なかったら、  オレ今頃……爆発してたかも。  なんて、これまたアホな事を考えながら。  アホだけど、可愛すぎる雅己に。  深く、キスした。

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