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第9話◇アイス

「啓介―」 「んー?」 「辞書ありがとー」 「ああ」  さっき借りていった辞書を持って雅己がやってきた。 「なんでアイス食べてんの?」 「さっき昼飯食べた後、皆で買うてきたんよ」  オレの言葉に、周りを見て、何人かがアイスを食べてるのを確認。 「いいなー、オレも食べたくなっちゃう」 「買うてくれば――――……て、ちょっと間に合わへんか」 「うん」  ちぇー、と口をとがらしてる雅己。 「嫌やなければ、食う?」  聞いて、でもこれ棒アイスやしな。オレもう普通に食うてるし。  かじるのは、いやか。そう思って、「食わへんよな?」と、言おうとした瞬間。 「え。いいの?」 「……嫌やないの?」 「え、何が?」  何がって言われると……。 「食べるん?」  雅己に向けてチョコアイス、差し出したら。  あーん、と口を開けて。ばく、と食いついてきた。 「――――……うまっ」 「……お前、食いすぎや」  めっちゃ大きな口で、1/3位食べたよーな気がする。  ぷ、と笑ってしまうけれど。 「うまーい」  にこにこの雅己に苦笑い。  口周りについたチョコを、ぺろ、と舐めてる。  キスしたい。  なんて。 ――――……思ってない。思ってない。  絶対、思ってない。はずやな、……うん。    「今度オレが食べる時、でっかい一口あげるから許して」  そんな事を言って、ごちそーさまーまた後でなーと走り去っていく。  くっきり歯形のついたチョコアイスを残して。  もー……あいつ何なん。  ……て、あいつは普通なんか。  ………オレが悪いんか。 「啓介くん、めっちゃ溶けてるよ」  通りかかった女子が、笑いながらティッシュを差し出してくれた。 「あ。すまん。 ありがとな」 「ううん」  ニコニコ笑顔で離れていった女子を見送りながら、残りのアイスを食べていると。近くに居た友達に。 「いーよな、お前。笑うだけでモテてさー」 「は? なんのこと?」 「ありがとな、て笑うだけで、モテて、ほんといいよなーていってんの」 「今のそんなんやないと思うけど……」  言いながら。アイスの棒を袋に戻す。  ゴミ箱に捨てながら。  そんな、モテたってなあ……。  ――――……好きな奴に、モテなかったら意味ないしなぁ……。    大きなため息を、ついていた。 月日が流れて? +++++ 「啓介、チョコちょーだい?」 「ん」 「ソーダ食べる?」 「ん」  お互い差し出しあって、ぱく、とかじりあう。 「今度チョコ買おうっと」 「ん?」 「今日はソーダ気分だったんだけど、やっぱチョコうまい」 「ん」 「啓介、前から、アイスっていうとチョコじゃねえ?」 「あー……ん、そぉかも。 たまには違うの食べるんやけどな」  先にソーダのアイスを食べ終わって、棒をアイスの袋に入れてる雅己を見て、ふと。 「雅己」 「うん?」 「――――……」 「なんだよ?」  残ってたチョコアイスを全部口に入れて、棒を捨てて。  そのまま、雅己の腕を引いて、頭を押さえつけた。   「?――――……っんっ……?……」  口づけて。アイスを、雅己の口に押し込む。 「んん――――……ふ ……」  舌の間で冷たいアイス。こく、と飲み込む音に、ぞく、とした感覚。 「……っん、んぅ……うー……っ……」  アイスがなくなったんだからもうやめろー、と言ってるとしか思えない抗議。押しのけようとする手を掴んで、そのままもっと引き寄せる。  しばらくキスして。離した瞬間。 「もー啓介のバカ!!!」  真っ赤になって、涙目の雅己に、ぼか!と殴られた。  ――――…… ほんま可愛ぇなー……。

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