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第16話「運命」
「なあなあ、けーすけ」
「ん?」
雨。自転車でなく歩き。部活は休みの日だし、のんびりだらだら歩いて帰っている途中、雅己がオレを覗き込んできた。
「河原先輩に告られたってほんと?」
「……ああ。せやな」
頷くと、おー、と雅己が言う。
「おー、て何や?」
「すごくない?」
「すごい?」
「河原先輩、うちの学校で一番人気なんだって。ものすっごいモテるんだって。……なんか、先輩と接点あったの?」
「……なしてそう思うん?」
そう聞くと、雅己は、んーと、考えてから。
「だって、あの先輩は、顔で選んだりしそうにないから、何かしら啓介と接点があったのかなーて思って」
「……そういう評価なんやな、あの先輩」
「うん。だって頭もいいって言うしさ。なんとなく、中身知らない奴に告白とかしなそうな感じがするから」
「……あの人が階段から落ちそうになったとこ、助けた」
「おお。そうなんだ!」
「なんか書類とかいっぱい持ってて、前がよく見えてなくて手伝おかなーて見とったら、階段踏み外してな」
「すげーヒーローじゃん、啓介」
何だか楽しそうな顔で笑いながらそんなことを言ってる。
「……助けた後、一緒に荷物運んだのが、先月」
「へーー。なんか、運命みたいだね」
何やら気軽に運命、なんて言葉を口にする雅己。
しかも、オレと。あの先輩の運命。
「……運命て何やねん」
「漫画とかなら、恋の始まりだなーと思って」
無邪気にそんなこと、言ってる。
「廊下でぶつかるとかさ、道の曲がり角でぶつかるとかと同じ感じで、階段で助けるとかもありそう」
あははー、と笑う。
「……で、啓介、付き合うの?」
そう聞かれて、軽いため息交じりで。
「もう断ったよ」
そう言うと、ぱっとオレを見上げる。
「そうなの?」
「……断った方は、噂んなってへんの?」
「告ったって言うのしか回ってきてない」
「そうなんや。告られてすぐ、断ったんやけど」
「なんで? めちゃくちゃ綺麗な人なのに」
そんな風に聞かれて、雅己を見つめ返す。
「雅己は、ああいう人が好きなん?」
聞き返したら、雅己は、ううん、と元気に首を振ってる。
「オレには無理な気がする。めちゃくちゃ頭良さそうだし。でもなんか、啓介となら、似合いそうだなーって」
「無理な気がするって……」
「えーだって、絶対、色々負けちゃいそうで……」
苦笑いの雅己に笑ってしまいながら。
「運命とか。そんな簡単に会えないやろ。たまたま階段で助けただけや」
「……ふーん、そっか」
「そーやて」
「まあ……じゃあまだ彼女できてないんだね」
「ん? なんで嬉しそうなん?」
「えー。だって。前に彼女出来た時、啓介オレのこと放置したし」
むむむ、と膨らみ始める。
「……もーせえへんよ」
苦笑いで応える。
「そうなら、付き合ってもいいけど。だめだからな、彼女オンリーになっちゃ」
クスクス笑う雅己に、また、ちょっと、ちくん、と何かが刺さる。
◇ ◇ ◇ ◇
月日が流れて♡
+++++
運命、とか。
不意に、そんな会話を思い出した。
あの後も結局、何人かと付き合ったり諸々してみたけど。
……結局。雅己以上に好きになれなくて。というか、ダントツ雅己が好きで。
覚悟を決めるまで、結構もがいた記憶がある。
運命、なぁ……。
腕の中の、雅己の寝顔。
……絶対、お前と会ったあん時が。
キラキラに見えた笑顔のほうが。
運命やったと思う、よなぁ……。
ぷに、と頬に触れる。
嫌みたいで、むにゃむにゃしとる。
……どーしたって、これを離したくないと、思うしなぁ。
抱き締めると、安心したみたいに、すぅ、と眠り始めた雅己に、自然と顔が綻んだ。
(2023/7/14)
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