387 / 719

第387話※

「え?」 窓ガラスから手を離して、肩に掛けられた布地に触れる。 夜景が煌めく窓ガラスの中でも、一際色鮮やかに目立つそれは、花柄が美しい、真っ赤な打掛だった。 「っ、火宮さん、これ…」 どう見ても女性物。なのにサイズは俺ピッタリだ。 「ククッ、色っぽいな」 「あの…」 「オヤジからの贈り物だ」 「は?」 七重さんの? 「披露目式をやると言ったら、火宮の姐さんじゃぁ、目一杯着飾っておめかしさせないとな、と贈って寄越した」 「はぁっ?」 いや俺、男。姐って、着物って…。 「ククッ、だがおまえが人前で、女物の着物など着るわけがないな」 「そりゃ…」 「俺もオヤジにそう伝えたし、俺は男のおまえに惚れて、男のおまえを選んだんだ。女の代わりでも、俺のオンナとしておまえを皆に紹介したかったわけでもない」 「火宮さん…」 「だから断ったが、オヤジが1度出したものを、引っ込めるわけもなく。ならプライベートで遊びにでも使え、と」 ニヤリ、と笑って、俺の肩に手を掛けてきた火宮が、そっと顔を寄せてきた。 「ククッ、よく似合う」 「なっ…」 この人、馬鹿なの? いくら遊びに使えと言われても、こんな明らかに高級そうな着物。本気でこんなことに使う? 「欲情して濡れた瞳と、全裸に打掛1枚。艶やかで、妖しくて、どんな女より、どれほどの夜景より、おまえが1番美しい」 「っ…」 「惚れた欲目を抜きにしても、これは」 見ろ、と顎を捕らえてきた火宮の手が、クイッと俺をガラス越しに見つめさせ、クチュッと口の中に、その指を差し込んできた。 「んっ、あっ…」 「よく見ろ、翼。たまらない色香を放つ、これがおまえだ」 「やっ、あっ…」 「俺のものだ。俺だけの」 ギラリ、と火宮の目の奥に揺れたのは、全力の独占欲と野獣のような欲望で。 「どうした?もう我慢ができないか?」 「んっ、あぁっ」 分かっているくせに。 グチュグチュと口の中を掻き回され、舌を捕らえられて無理矢理舐めさせられれば、媚薬の入った身体に広がるのは、もどかしい快感で。 「あっちもこっちも涎を垂らして」 「やっ…」 飲み込みきれない唾液と、中心から溢れる先走りを笑われる。 「ふっ、ぅっ、あぁっ」 ガクガクと震えてきた足を必死で踏ん張り、けれど支えきれない上半身を、後ろの火宮に凭れさせる。 「あっ、だめ、火宮さっ、もっ…」 後ろに入っているプラグをきゅん、と締めてしまい、ゾクゾクと湧いた快感に、限界を感じた。

ともだちにシェアしよう!