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第418話

「俺、か…」 「そうですね。翼さんが、豊峰の若の味方だから」 「本当、火宮さんは、なんで分かるんだろう」 俺の望みも、俺が欲しい未来も、俺ですらどうすればいいか分からないような希望まで、先回りして。 「ふっ、それは会長が、何よりあなたを重んじているからでしょう」 「重んじる?」 「簡単に言えば、愛、ということです」 「っ…」 サラリと単調な声で言われた単語だけれど、その一言はあまりにも破壊力があり過ぎた。 「翼?」 「翼さん?」 ゴツン、とテーブルにおでこをぶつける勢いで突っ伏した俺に、2人の心配そうな声が掛かる。 「な、なんでもない。なんか照れただけだから」 顔を隠したところで、多分俺は耳まで真っ赤だろう。 カッカと火照る頬が教えてくれる。 「なんだ今更」 「本当、今更ですね」 あぁもう、分かっているけど、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ。 デリカシーってものがないこの2人に、内心で悪態をつきながら、俺はぎゅぅ、と目を瞑った。 「まぁいいでしょう。翼さんは指示範囲までやり終えているようですので、豊峰の若。おまえはまず、この基礎強化の問題の方を解いてみろ」 問題集をお借りします、と許可を取ってくる真鍋に、コクコクと頭を伏せたまま頷く。 「へぇーい。ちぇっ、翼はこんなんでも頭いいんだもんな」 ブツブツぼやく豊峰の声が聞こえた。 「ちょっと藍くん。こんなんでも、って失礼じゃない」 「だってこんな色ボケしているくせに、学年トップクラスってさー」 「ちょっ、色ボケって!何言って…」 思わずガバッと頭を起こして、ムーッと豊峰を睨んだら…。 「お2人とも、手を出しなさい」 「っ…」 「ッ!」 怖ぁい怖ぁい真鍋様が、冷たいオーラを立ち上らせて、ピシリと指示棒を手のひらに打ち付けていた。 「早く」 コツ、とテーブルを示されて、ビクッと肩が震えてしまう。 「無駄口を叩いている暇があったら、さっさと指示した問題を解け」 「はひっ」 「翼さんは、若の無駄口に乗っかって邪魔をなさらないでください」 「は、はい」 「1打ずつだ」 っ…。 とても逆らうことのできないオーラを醸し出す真鍋に、恐る恐る手のひらを差し出せば、ピシッと指示棒の痛みが、横一線に走り抜けた。 「くぅっ…」 本当、厳しい。容赦がない。鬼真鍋。 ぶたれた手のひらをぎゅっ、と握って苦痛に耐える。 「っぎゃあ!」 隣で豊峰も、潰れた悲鳴を上げていた。 それからも、文字通りビシバシしごかれながら、今日の家庭教師は終わり、真鍋がいくつかの課題を出して帰って行った。

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