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第434話

「あ゛ー、負けた。もう負ける。絶対負ける」 放課後、ブツブツと呪いのように呟きながら、迎えの車まで歩いて行く俺の隣で、豊峰が盛大に苦笑していた。 「だから、まだんな悲観すんなって!明日もまだあるんだから」 「だって、明日は保体と日本史と家庭科だけでしょ。もう負けたも同然だよ…」 たった2点。されど2点。明日の3教科で紫藤が得点を落とすとは思えない。 「はぁぁぁっ」 俺はきっとこのまま、罰ゲームの上、お仕置きなんだ。 「行きたかったな、夏休みにお出掛け…」 「だから、まだ分かんねぇって!」 なっ?と肩を叩いて励ましてくれる豊峰に、力無い笑顔を向けたところで、ふと気がついた。 「そういえば、藍くんの方はどうだったの?」 自分に夢中で、すっかり忘れていた。 「あ?俺?俺は…」 じゃーん、と得意げに広げられた答案用紙の左上には、72、86、81、77、75、90と、どう見ても上位クラスに食い込むだろう得点の数字が並んでいた。 「すっごーい!」 「ほぼ満点のやつに言われたくねぇけどな…。真鍋幹部のヤマがすげぇ当たったわ」 「ふふ、藍くんの頑張りの成果だよ」 まったく、照れて悪ぶらなくたって。 「へへっ。やりゃぁできるってことか。親父のことも…」 「うん」 「諦めて投げ出す前に…。俺には武器と、味方と、そしておまえら仲間がいる」 「うん」 ぎゅっ、と嬉しそうに答案を握り直した豊峰の顔は、なんだかとても眩しかった。 * そうして翌日、運命の結果発表では…。 「うっそ!紫藤くん、日本史落としたの?しかも2点!」 苦い微笑を浮かべながら、ペラリと見せられた日本史の答案には、98の数字。思わず声が弾んでしまい、紫藤にますます苦笑を浮かべさせてしまった。 「あ、ごめん…」 「いや。まさかのこんなところで、うっかり人物名を間違えるなんてね。火宮くんはもちろん満点でしょう?」 「うん」 堂々と突き出したテストには、100点の字。 「あーあ、これで今のところ、同点か」 「っていうことは、家庭科が勝負?」 「そうなるけど、そうは言ってもねぇ?」 家庭科だし。 そう呟く紫藤の気持ちは分からないでもなかった。 「じゃぁ結局、同点1位、かな」 「他クラスに900点満点がいなければね」 「っ…」 もしいた場合は、2人して2位で罰ゲームになるわけだけれども。 「って、そこの異次元の会話している2人」 「へっ?あ…」 「いるわけねぇだろうが。どんだけぶっ飛んだ会話してんだよ…」 もう色々通り越してキモいわ!と叫びながら、豊峰が自分のテスト片手に近づいてきた。 「ふふ、そういう藍こそ、藍史上最高得点なんでしょ?」 「へっへん、見て驚け」 「ッ…これは、もう30位内余裕なんじゃ…」 にぃ、っ、と得意げにVサインをしている豊峰は、相当に自信満々だ。 「結局、全員目標達成かな?」 ポツリと呟いた紫藤の言葉通り、俺と紫藤は家庭科満点の898点、同点1位。 藍も間違いなく30位以内に入る結果となった。

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