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第482話※

「あぁーっ…」 目の前がチカチカと眩んで、たまらない快感に背中がビクビクと仰け反った。 「クッ、きつ…」 きゅぅ、と寄った火宮の眉が、なんて色っぽいんだろう。 はっ、はっ、と短く上がる熱い吐息が、火宮も感じてくれている証みたいで嬉しい。 「あ、あぁっ、火宮さっ…じんー」 ピュッと飛んだ白濁が腹の間を汚し、同時に締め付けたナカで火宮が弾ける。 「ッ、翼」 ふわりと微笑んでいく火宮の顔が愛おしい。 甘く蕩けるように俺を呼ぶ低い声に、全身が熱く痺れた。 「あぁ…」 好きだなぁ。 大好きだ。 ノロノロと火宮の顔に伸ばした手をふわりと取られ、その薬指に啄ばむようなキスが落とされる。 『一生、共に』 口パクだけでそっと紡がれた言葉に、ふわりと頬が勝手に緩んだ。 「じん…」 幸せで嬉しくて、ポロリと伝った涙を掬われる。 「ふっ、甘いな」 ペロリとその涙を口に含んだ火宮が、幸せそうに微笑んだ。 * 「っ!朝!」 ほけほけと、幸せな眠りに浸っていた俺は、ふと瞼の裏を照らす明かりに気がついて、慌ててガバッと身を起こした。 「ククッ、おそよう」 「っーー!火宮さんっ。学校!」 急いで飛び起きた俺の横で、火宮がワイシャツにネクタイを引っ掛けた姿で笑っていた。 「今日は休ませると言ってあっただろう?」 「えっ?あ?そういえば?」 昨日、ベッドの中で聞いたような、聞かなかったような? 不確かな記憶にコテンと首を傾げたら、クックッと可笑しそうに喉を鳴らされた。 「真鍋がとっくに連絡済みだ。おまえも起きたなら、さっさと朝食を済ませて支度をしろ」 「え?あの?えっと、火宮さんはダークスーツって…」 会社だろうか。 それにしては時間が遅い。 「本家へ行く」 「は?え?」 「もちろん、おまえもだ」 スルスルと、器用にネクタイを結んだ火宮が、ニヤリと唇の端を吊り上げた。 「本家って…どうして」 まさか学校を休ませてまで、七重さんのところに遊びに行くわけじゃないよね。 「ふっ、おまえは、蒼羽会会長のツレとして同席しろ」 「っ!」 それってまさか…。 「霧生と、輝流会が終末(おわ)る瞬間に立ち会うのさ」 クックックッ、と楽しげに喉を鳴らす火宮は、時々こうして、ヤクザの頭だったんだってことを思い出させる。 ブラックなオーラが全開で、俺でも思わず顔が引きつる。 「あ、の…えっと、スーツですか?」 「ん?」 「いえ、その、蒼羽会の姐って…」 「いや、別に何でも構わないぞ」 「え、でも…」 俺だけ私服でいいんだろうか。 「ククッ、オヤジは別に気にしないだろうし、他の人間も、俺のツレに、服装ごときでごちゃごちゃ言うまい」 「はぁ…」 そういうもん? 「気になるなら真鍋にでも確認しろ」 すでにリビングに待機しているぞ、って。 「えぇっ?ちょっ、待たせて?」 「おまえが中々起きないからだ」 「はぁっ?だったら叩き起こしてくれれば…」 「だらしない顔をして、あんまり幸せそうに眠っていたものでな」 ニヤニヤと、揶揄うように笑う火宮の悪戯な表情がムカつく。 「だらしないって…。そもそも、寝坊するくらい昨日疲れさせたのは誰ですかっ」 半分は…いや、半分以上は火宮のせいだ。 「ククッ、おまえがもっともっとと煽るからだろう?」 「はぁっ?」 「仕置きで疲れていたくせに、シろ、と言ったのはおまえだろう」 「なっ…」 半ば強制的に言わせたのは火宮だろうに。 このどS! カァァッ、と、色んな意味で頭に血が上ったところに、ふと、静かなノックの音が鳴り響き、冷や水をぶっかけるかのような、冷静で単調な真鍋の声が聞こえてきた。 「丸聞こえです。朝っぱらからお熱い痴話喧嘩も結構ですが、そろそろ本格的にお支度をしていただけませんと、お約束の時間に遅れます」 ニコリ、と、目だけが笑っていない真鍋の顔が目に見える気がした。 「クッ、ほら」 小舅がうるさいぞ、と揶揄うように笑いながら、火宮が寝室のドアを開ける。 「っ…おはようございます」 「おはようございます」 ピシッとしたスーツに身を包み、背筋を伸ばした綺麗なお辞儀をした真鍋が、そっとリビングに出た俺たちを迎えてくれた。 だけどその目が。 『戯れていないで、とっとと支度をしろ』と、まったく微笑んでいない冷たさで語っているのが見えて、俺の愛想笑いはそのままヒクリと引き攣った。

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