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第495話

で。なんでこうなった…。 俺は、準備が出来たと言われたバーベキュー会場に火宮と共にやって来て、何故か椅子に座った火宮の膝の上にちょこんと座らされていた。 「ほら、翼。牛肉だ」 あーん、と言われ、口元に肉を突き出されても、口を開けてあげる気にはならない。 「翼?」 真鍋は給仕に徹するつもりか、少し離れた場所の焼き網からせっせと食べ物を運んでくれるだけだし、豊峰たちは完全に使用人と化していて、炭を足したり焼き物をしていたりと、まったくバーベキューを楽しむどころの話じゃない。 「こんなの、つまらないです…」 唯一、ペースを崩さない夏原だけが、箸と皿を手に、相変わらず真鍋をせっせと追いかけ、あれを取る?これを食べる?と世話を焼いては、クールな視線に返り討ちにされている。 「ククッ、どうした。不満そうな顔をして。バーベキュー、したかったんだろう?」 ほら、ソーセージだ、と今度はフォークに突き刺されたそれを口元に運ばれて、俺はムッとして火宮を振り返った。 「っーー!そうですけど!俺は、ただバーベキューがしたかったんじゃなくてですね、みんなとワイワイ、コンロの周りを囲んで…」 焼ける側から網の上をみんなでつついて、時には肉の取り合いなんかもしちゃって…と想像していたのに、なんだこれは。 「ククッ、俺の膝の上では不服か?」 「場所も!ですけど、そうじゃなくって…」 そりゃ、火宮が立ち食いで、網から直接焼けた肉を取ってかぶりつく姿なんて想像はできないけどさ。 だったらそれならそれで、俺が肉くらいせっせと運んであげるのに。 「そんなに邪魔者たちを介入させたいのか」 「邪魔者って…」 「俺は翼と2人でも十分楽しいのにな」 あなたはね! 「でも…そりゃ、俺も、火宮さんと2人が嫌なわけじゃなくて。だけどただ、火宮さんとなら、いつだって2人きりになれるから」 だから、せっかくみんなといるときくらいは、みんなでわいわいやりたいんだけどな。 そっと窺うように覗き込んだ火宮の目が、ニヤリ、と意地悪く弧を描いたのが見えた。 「っ!」 これはよくない予感…。 「そうか。ではバーベキューが済んだその後こそは、俺を最優先にするということだな?」 「っ…」 「そういうことなら、今くらいは、おまえに譲ってやってもいい」 ん?どうする?と、眇めた目で出された交換条件。それは…。 「な、なにを企んでいるんですか?」 「別に。今邪魔者と時間をくれてやる代わりに、後でゆっくり俺と過ごせと言っているだけだ」 確かに言葉上はそう取れるけど。 「本当ですね?」 「おまえにくだらん嘘はつかん」 「わ、わかりました。じゃぁ、後で火宮さんを優先しますから、今はみんなとバーベキューをしていいですね?」 「ククッ、真鍋。だ、そうだ」 「かしこまりました」 ちょうど背後に来ていた真鍋が、スッと一礼して、豊峰や部下たちの方に歩いて行った。 ただ一瞬俺を見た目が、「はぁっ、簡単ですね」と呆れたように細められていたのが気になるけれど。 「えっ?いいんですか?俺たちも一緒に食べちゃって」 「やったー、会長のお許しも出たし、能貴も働くのは終わりにして、俺と楽しもう」 真鍋から話を聞いたのか、にわかに盛り上がり始めたコンロの周りに向かった俺だけれど。 なんとなく、何かにはまったような気がしないでもなかった。

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