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第525話
それから昼食を済ませ、リビングでゴロゴロとしていた午後。
暇ならカードゲームでもやろうぜ、なんて豊峰が提案しに来たのを、ふと見た火宮が、ゆっくりとソファの上で足を組み替えた。
「退屈なら、少しみんなで遊ぶか?」
「え?」
「ちょっとした娯楽設備なら、地下にあるぞ」
大人の遊びだが、と目を細める火宮に、俺の心は期待に弾む。
「大人の遊び!遊びますっ」
それがなんなのか分からなかったけれど、火宮の口から『みんなで』なんて発言が飛び出すのは、すごく稀だ。これは飛びつかない訳にはいかない。
「ククッ、豊峰。真鍋に伝えて来い」
「っ、はい、会長」
途端にビクッとなって、丁寧口調になる豊峰が可笑しい。
「メンツはあと夏原と紫藤でいいか?」
「はい、それでいいです」
「ククッ、だ、そうだ、豊峰。夏原は放っておいても真鍋が来れば勝手についてくる。紫藤にはおまえが伝えろ」
「はいっ」
ピシッと背筋を伸ばして返事をして、豊峰がリビングを出て行く。
「さて、俺たちも行くか」
「はい」
ゆっくりとソファから立ち上がった火宮を見上げて、俺はワクワクと「みんなで遊び」に期待した。
*
火宮に連れられ向かった地下は、ものすごく雰囲気がある、シックでクールな大人の遊び場だった。
「っ、何これ、カジノ?」
実際のカジノなんて見たことがないから、テレビや想像だけのイメージだけど。
ルーレット台に、カードゲーム用らしい緑のフェルトテーブル。壁際にはスロットマシーンまである。
「ククッ、カジノか」
「っ、わぁ!あれはビリヤード?」
少し奥に進めば、今度は緑色のラシャがスポットライトに照らされた、本格的なビリヤード台が設えられていた。
「すごーい」
「わぁ、本当だ。随分と本格的な遊戯場だね」
「っ?あ、夏原さん」
にこりと笑って、地下への階段を下りて来たのは、薄いフレームの眼鏡をかけた、お洒落な普段着の夏原だった。
「ですからあなたはまた、勝手にズカズカと…」
はぁっ、と深い溜息とともに、真鍋が続いて来る。
その後ろには、キョロキョロと興味深そうに周りを見回す紫藤と、ワタワタと1番後ろをついてきた豊峰がいた。
「ククッ、揃ったか」
呼び寄せたメンツが集まったのを眺めて、火宮がニヤリと口角を吊り上げる。
「さてと。翼、おまえ、ビリヤードはやったことがあるか?」
「真鍋、キュー」と言いながら、火宮がスッと手を差し出す。
「えっ?いえ、俺はやったことないですけど…」
「クッ、そうか。では今日は、そのビリヤードをやってみるか?」
「わぁ、はい!」
カードやルーレットのギャンブルはまだガキには早いからな、なんて意地悪く言う火宮が、真鍋からキューを受け取る。
それを手にした姿がまた様になっていて格好いい。
「本当、イケメン」
何でもかんでも似合うとか、本当ズルい。
むーっとなりながらも、思わず見惚れてしまう俺の目の先で、火宮の口元が、それはそれは意地悪く持ち上がった。
「ただし、ただゲームをするのでは面白くない」
「え?」
「だから、今からやるのは、大人チーム対子供チームで、賭けビリヤードだ」
ニヤリ、と笑う火宮に、真鍋が頭を抱えて深い溜息を吐き、夏原が嫌そうに顔を歪めた。
俺は、企み顔の火宮に嫌な予感しかしないし、紫藤も同じく、火宮を怪訝な目で見ている。
豊峰だけが1人、火宮の発言に逆らうことなど思いつかないようで、コクコクと素直に頷いていた。
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