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第526話

「っーー!大人対子供って…。それ、ズルくないですか?」 意地悪く頬を持ち上げたまま、チョークをティップに塗りつけながら、火宮がスゥッと目を眇めた。 「狡い?」 「っ、そうですよ!だって、そんなの絶対に、俺たちが勝てるわけないじゃないですか」 ぶっちゃけ、こっちはルールすら知らないど初心者なんだ。 それに対して大人組は、火宮は言うまでもなく、どうせ真鍋や夏原も、プロ並みに出来るんでしょ? 「ククッ、やってみる前から、敗北宣言か?」 「っ、だって…」 絶対に勝てないのが目に見えているもの。 しかもどうせ『賭けビリヤード』って、その賭けの内容は、きっと俺にとってものすごく都合が悪いことに決まっている。 「ふっ、ハンデはやる」 「ハンデ?」 っ、それによってはもしかして、俺たちにも勝ち目があるかもしれない? 僅かに揺らいでしまったところに、ふと夏原の笑い声が聞こえた。 「クスクス、かぁーいちょ。俺も火宮翼くんの発言に賛成です。そのチーム分けじゃぁ、どんなに手を抜いても、たとえハンデをつけても、俺たちの圧勝ですよ?」 考え直しません?と微笑む夏原は、意外や意外、俺の味方なのか。 「チッ、夏原、おまえな」 「ふふ、だから、こういうのはどうです?能貴と豊峰藍くんをトレード」 「ほぉ?」 「大人チームは、会長と俺と豊峰藍くん。子供チームに能貴と火宮翼くんと紫藤和泉くん」 ね?と悪戯っぽく目を細める夏原に、真鍋の非常に嫌そうな視線が向いた。 「却下です。私が会長の敵対チームに入るですって?受け付けませんね」 「えー」 ムゥッと口を尖らせる夏原だけど、まぁそうだろう。 この火宮命の真鍋が、たとえ遊びでもゲームでも、火宮と戦う立場になり、打倒火宮と言っているも同然のチームに、ホイホイと行くわけがない。 「クックックッ、俺は構わないが、だ、そうだぞ?夏原」 さぁどうする?と笑う火宮に、夏原がウーンと唸り始めた。 『だからって、ただ大人チームで戦ったって、俺たちのご褒美って、負けチームの子供たちを好きにする、的な話だろ?そうしたら会長は火宮翼くん、能貴にはどうせ豊峰藍くんをますます近づかせるだけの結果になるだろうし…。俺には紫藤和泉くんが残る。面白くない』 「夏原?」 『だからって、能貴はこの様子じゃ、絶対に子供チームには行かないしな。だったら俺が紫藤和泉くんとトレードして…って思っても、会長と能貴と紫藤和泉くんのチームに、火宮翼くんと豊峰藍くんと俺のチームで勝てるわけがないし…』 「あの、夏原さん?」 「あ゛あ゛あ゛あーっ、どうすれば、俺が勝者で能貴が負けて、能貴を好きにする権利を得られるんだ」 ブツブツと何か言っていた夏原が、不意に頭を抱えて喚いた。 「ククッ、まぁおまえはどうせ、そんなことを考えているだろうとは思ったが」 「はぁぁっ、くだらない。ならばどうです?いっそあなたと私、1対1で勝負いたしましょうか?もちろん勝った方は負けた方の言うことをなんでも聞く、ということで」 ニコリ、と、目だけが笑っていない鮮やかな笑顔で真鍋がのたまう。 その手は新たに手にしたキューを握り、ヒタリと夏原の頬に当てている。 うわ、どS様…。 ものすごく様になっているその態度に、無関係なはずの俺までゾクリと寒くなる。 なのに夏原は凍りつくどころか、パッと顔を輝かせて、スッとそのキューを握り返した。 「えっ?本当?」 ウキウキと喜びに声を弾ませる夏原はさすがだ。 「くすくす、じゃぁ藍。藍は僕とゲームする?」 にこり、とこちらはこちらで、何やら不穏な空気を漂わせている紫藤がいる。 「っーー!冗談じゃねぇ。翼っ!翼も嫌だよな?」 この流れだと、俺は火宮と…。 「うん!やだ」 それこそ絶対に勝ち目がないし、賭けだなんてとんでもない。 しかも「みんなで遊ぶ」が、結局それぞれに分かれてしまうじゃないか。 「チーム戦じゃないとつまんない」 ね?と一同を見回した俺に、火宮のバックがある今、逆らえる人間はいない。 「ちぇ。会長の姐さんの発言じゃなー」 「そうです、そうです。翼はみんなで遊びたいんだもんな!」 「翼さんの要求とあらば仕方がありませんね」 よし。どうやら流れはこっちに来たみたいだ。 ならばついでに…。 「ねっ、火宮さん、いっそ俺が夏原さんとトレードで…」 よくありませんか? そうしたら俺は火宮に虐められなくて済むし、むしろそのチームなら勝てる。 他のみんなには悪いけど…。 「それこそ却下だ。ったく、面倒な。ごちゃごちゃと揉めるから、チームは初めに言った通りだ」 それは大人対子供? 「っ、えー」 「異議は受け付けん」 あぁ、俺様何様火宮様。 結局、反論の許されないその鶴のひと声で、俺たちの賭けビリヤードゲームが始まった。

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