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第527話

「クスクス、それで、会長。やるのは、9ボールですか?それともスヌーカー?」 これまた様になった姿でキューを手にした夏原が、スゥッと薄く笑みを浮かべた。 その動作に合わせて揺れる長い髪と、ラフな格好とはいえ、質の良さそうなシャツを着ている姿は、なんというか…。 「ハスラー?」 あまりに様になっていて、思わず呟いてしまった俺に、夏原が苦笑して、火宮がクックッと喉を鳴らした。 「ひどいなぁ」 「ククッ、賭けビリヤードプレイヤーというのなら、そうだろう」 嬉しくなさそうな夏原の言葉と、ニヤリと笑った火宮の声にキョトンとなる。 「ふっ、詐欺師と呼ぶなら、まさしく」 悪徳弁護士殿、と口元だけを微笑ませる真鍋が参戦してきた。 「えっ?えっ?」 もしかしてハスラーって、あまりいい言葉じゃなかった? なんとなく、ビリヤードする人のことかと思っていた俺は、慌てて火宮を見上げた。 「クックックッ、まぁ、一般的にはそうだがな。でも元は詐欺師とかペテン師、ビリヤードプレイヤーにしても、ギャンブル専門の玉突きに使う言葉だな」 「っーー、そうだったんだ…」 じゃぁ失礼なことを言っちゃったかな…。 そろりと夏原に戻した俺の目は、すでにこちらにはわずかも興味を持っていない夏原の姿を捉えた。 「悪徳弁護士だって?」 「それはそうでしょう?うちがヤクザだと知っていて、うちの顧問をシラッと引き受けていらっしゃるあなたが、善良な弁護士ですか?」 「クスクス、まぁ、程遠いか」 「ふっ、ご自覚なされているのなら、文句もないでしょう?」 私は真実を述べているまでです、と冷ややかに言い放つ真鍋と夏原が、いつものようにやり合っている。 「うん、まぁそうだよね」 俺がうっかり口を滑らせたところで、夏原の琴線に触れるのは真鍋の言動だけ。 いつものごとく、真鍋に突っかかることだけに全神経が向いている夏原が、ニヤニヤと真鍋に近づいて行っては、ピシリとキューではたかれている姿を見て、俺はヘラリと笑ってしまった。 「まぁ、しっくりくるよね」 安定感抜群の、この感じ。 落ち着くというかなんというか。 そんなこんなの横では、いつの間にか火宮に許可を取った紫藤が、火宮から道具を借りて豊峰になにやら指南を始めている。 「なんだ、あいつは経験者か」 「ほっえー、紫藤くん、できるんだ…」 ビリヤードを嗜む高校生って、一体なんなんだ。 「ククッ、なかなか筋はいいな」 「っ!」 紫藤がサラリと突いて見せた打球を見ながら、火宮がニヤリと笑ったのが、なんか面白くなかった。 「火宮さんっ!」 「なんだ?」 「俺にもっ…俺にもちゃんと、ゲームになるくらいは教えて下さい!」 ぐいー、と火宮の腕を引っ張って、俺もキューをもらおうと壁際へ歩いていく。 フラリと大人しく付いてきた火宮が、ゆったりと頬を持ち上げた。 『クックックッ、嫉妬か?可愛いことを』 「なんですかっ?」 「いや。もちろん、教えてやるさ。手取り足取りな」 「っーー!」 ばっ、バカ火宮っ! フゥッ、なんて耳に息を吹きかけて、囁くように顔を近づけて言ってきた火宮に、ゾクッと感じてしまった俺は、涙目になった目をギロッと火宮に向けた。 「ほら、奥さん?こちらへどうぞ?」 スッと俺の分のキューを取って、エスコートするみたいに片手を手のひらを天井に向けて差し出した火宮にカァッとなる。 「す、すぐに上達して、絶対に勝ちますからねっ!」 あぁ、可愛くない俺の口は、今日も絶好調。 そっと手を取ったまでは良かったけど、うっかりかましてしまったのは宣戦布告って…。 カツーン、と綺麗に豊峰がブレイクショットを決めた音が、ぎゅっと唇を噛み締めた俺と、相変わらず言い合いを続けている真鍋たちの間に、綺麗に響き渡った。

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