10 / 719
第10話
「失礼します。翼さん、いらっしゃいますか?」
夕方、何やら大きな紙袋を提げた真鍋が突然やってきた。
「うわわ、はいっ?!」
やばい。暇すぎて、俺のだって言われた服を、片っ端から引っ張り出して、1人ファッションショーを繰り広げていた。
「これは…」
わー、その冷たい目、勘弁してー。
出しては着て、着てはたたみもせずに放置されている服たちが、リビングに散らかり放題なのは、俺が1番よくわかってる。
「す、すぐに片付けますっ!」
真鍋の呆れた視線が痛すぎて、俺は慌てて散らかした服たちを手近なショッパーに次々と突っ込んでいった。
「いえ。まぁ、ゆっくりもしていられませんが…」
「あっ、何か用事ですか?先に聞きます」
待たせるのも悪いし、片付けなら後でもできる。
「いえ、外出のお迎えですので」
「へっ?外出?」
俺は、火宮の許可なく、この家を出てはいけないのではなかったのか。
「社長が夕食を共にすると。翼さんをお連れするよう言付かってまいりました」
「あ、え?夕食?外食するんですか?火宮さんと?」
「はい。社長は仕事先から直接向かうとのことなので。翼さんはこちらにお着替えください」
突き出されたのは、大きな紙袋。
多分中身は服だと思われる。
「って、え?スーツ?」
まさか外食って、高級レストランでディナーとか言い出すんじゃないだろうな?
「テーブルマナーなんか知らないぞ」
さすがに昨日の今日でオーダーではなさそうだが、やけにサイズが合っているスーツに怯む。
「お気になさらず。さぁ、早く着替えて参りますよ」
「え。えーっ」
そこは気にしよーよ。火宮さんに進言してよ。
恥をかくのは俺と、真鍋さんたちが大事にしてる会長さんだよ?
「着方はわかりますね?」
「え、まぁ、はい」
スーツったって、制服と変わらないし、一応ネクタイだって結べる。
なんだか流されてしまったが、俺はあれよあれよという間に着替えさせられ、黒塗り高級車に押し込まれてしまった。
ともだちにシェアしよう!