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第10話

「失礼します。翼さん、いらっしゃいますか?」 夕方、何やら大きな紙袋を提げた真鍋が突然やってきた。 「うわわ、はいっ?!」 やばい。暇すぎて、俺のだって言われた服を、片っ端から引っ張り出して、1人ファッションショーを繰り広げていた。 「これは…」 わー、その冷たい目、勘弁してー。 出しては着て、着てはたたみもせずに放置されている服たちが、リビングに散らかり放題なのは、俺が1番よくわかってる。 「す、すぐに片付けますっ!」 真鍋の呆れた視線が痛すぎて、俺は慌てて散らかした服たちを手近なショッパーに次々と突っ込んでいった。 「いえ。まぁ、ゆっくりもしていられませんが…」 「あっ、何か用事ですか?先に聞きます」 待たせるのも悪いし、片付けなら後でもできる。 「いえ、外出のお迎えですので」 「へっ?外出?」 俺は、火宮の許可なく、この家を出てはいけないのではなかったのか。 「社長が夕食を共にすると。翼さんをお連れするよう言付かってまいりました」 「あ、え?夕食?外食するんですか?火宮さんと?」 「はい。社長は仕事先から直接向かうとのことなので。翼さんはこちらにお着替えください」 突き出されたのは、大きな紙袋。 多分中身は服だと思われる。 「って、え?スーツ?」 まさか外食って、高級レストランでディナーとか言い出すんじゃないだろうな? 「テーブルマナーなんか知らないぞ」 さすがに昨日の今日でオーダーではなさそうだが、やけにサイズが合っているスーツに怯む。 「お気になさらず。さぁ、早く着替えて参りますよ」 「え。えーっ」 そこは気にしよーよ。火宮さんに進言してよ。 恥をかくのは俺と、真鍋さんたちが大事にしてる会長さんだよ? 「着方はわかりますね?」 「え、まぁ、はい」 スーツったって、制服と変わらないし、一応ネクタイだって結べる。 なんだか流されてしまったが、俺はあれよあれよという間に着替えさせられ、黒塗り高級車に押し込まれてしまった。

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