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第283話※

「っ、く…」 この人は…。 「ククッ、辛いか?」 バタバタと反射的にもがいた足を撫で上げられて、ゾクゾクと背筋が震えた。 「は、ぅ…」 辛いに決まってる。 こう何度も絶頂をはぐらかされて、高まり切った熱の行き場がない。 空気を求めて喘ぐ口から、タラリと唾液が落ちた。 「その顔」 「あっ、はっ…」 どんな顔? 「欲情に蕩けて、縋るように俺を見る。ククッ、イきたいか?翼」 スゥッと太腿を辿った指が、ピンッと性器を軽く弾いた。 「ひぃぁっ…んっ、ンッ」 それだけの刺激にも、ゾクゾクと快感が駆け抜けて、壊れた機械のように、頭をガクガクと頷かせてしまう。 「翼?」 「あっ、あっ、ひ、みや、さ…」 体内を焼き尽くすようなこの熱をどうにかして。 「クッ、ゾクゾクするほど色っぽい」 「はっ、ぁ?な、に、言っ…」 ギラリと欲望を弾いたその瞳が俺を見る。 「この色気が、やつらを煽ったんだ」 「んぁ、な…?」 だから何を言ってるの。 俺に色気なんて…。 ククッ、と喉を鳴らした火宮が、不意に身体を起こして、悶える俺の身体を抱き上げた。 「ひゃっ…」 「少しおまえに思い知らせてやる必要がある」 「な、に…?」 急に抱き上げられ、ベッドから下ろされ、どこへ運ばれていくのか。 ネクタイが絡みついたままの両手は不自由で、掴まれないから少しでも暴れたら落ちそうだ。 それが怖くて抵抗できない俺を、火宮はユラユラと部屋の入り口の方へと運んでいく。 「ひ、みや、さん…?」 何をされるかわからない不安と、どこへ連れて行かれるのかという疑問。 小さく呼びかけて首を傾げたとき、入り口近くのクローゼットの扉の横の壁、上から下まで、全身が映るような姿見の前で止まった火宮が、ゆっくりとそこに俺を下ろした。 「っ!」 ガクガクと震える足を、何とか床に立たせ、けれども力の入らない身体を、後ろから俺を支える火宮に寄りかからせてしまう。 チラリと目を上げればそこに、シャツを引っ掛けただけの姿で両手を拘束され、しどけなく佇み、欲情に目を濡らした俺がいた。 「いやぁっ!」 虚像だ、と分かるのは、頬についた傷跡が実物の俺と反対側にあるから。 けれども鏡の中に映り込んだ俺は、紛れもなく俺自身の今の姿で。 「これは仕置きだぞ、翼。目を逸らすな」 中心で勃ち上がり震える熱も、プックリと腫れた赤い乳首も、だらしなくよだれを垂らす口も、あまりに淫らな自分の姿を見たくなくて、思わず背けた顔は、火宮が顎を掴んできた手に戻された。 「いやっ、やだ。こんなっ…」 「ククッ、綺麗だろう?」 ニヤリと唇の端を吊り上げて、鏡越しに俺を舐めるように見る火宮の視線に身体が熱くなった。 嫌なのに、そこに映る漆黒の瞳に、確かな欲情と、愛おしさが見えるから、きゅん、と切なく下腹部が震える。 「やつらが目をつけたのは、ここだったな」 「ひぁっ…やっ、やっ…」 「ちゃんと立っていろよ。消毒だ」 「あぁっ!」 トンッ、と俺の背中を壁に明け渡して、スルリと前に回り込んだ火宮が、拘束された両手を頭上に上げさせ押さえつけ、胸の飾りに舌を伸ばした。 「はっ、あっ、あんっ、んンッ」 チロチロと這う舌が、ゾクリとするほど気持ちいい。 ちゅう、なんて、わざと音を立てて吸わないで。 尖った乳首はもう完全に性感帯だ。 胸元で揺れる漆黒の髪から視線を逸らし、ふと上げてしまった目は、目の前でいやらしく悶える俺を見つけた。 「あっ、あっ、やだっ…」 欲望に潤んだ目で、俺が俺を見る。 乱れた姿がとても淫らだ。 「あっ、やだ。やだっ、火宮さっ…」 見たくないよ、恥ずかしい。 こんなの、こんなの…。 イヤイヤと、むずかるように首を振って、思わず目を閉じたら、咎めるようにカリッと乳首に歯を立てられた。 「やぁっ、痛っ」 「仕置きだと言っているだろう。しっかりと見ていろ」 「はぁんっ、はぅ…あんっ」 叱られて、渋々開いた目はやっぱりいやらしい俺の姿を捉えて。 「ククッ、分かるか?翼。おまえの身体はこんなにも淫らで艶めかしい」 「んんっ、あんっ、そ、んな…」 確かに、まるで俺じゃないみたいに、目の前に映る俺は色っぽくていやらしいけれど。 「喧嘩腰の相手が、暴力に出ずに襲ってくるほどな」 「それは…」 事実だけど、認めるのが癪で。 「見ていろ、翼。俺の注意も聞かず、独善で突っ走り、挙句俺以外に手を出された罰だ」 「っ…」 「よく見ていろ。これがおまえの1番艶やかな顔だ」 それはまさか、イき顔を自分で見ていろということで…。 「あっ、あっ、もっ、許して…」 情けなく震えた懇願は、ストンとその場に膝をつき、俺の中心に唇を寄せた火宮の行動で悲鳴に変わった。

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