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第330話※

ふっ、ぅ、あぁっ…。 乳首をきゅっと摘まれて、ゾクゾクと広がった痺れに、背中が仰け反った。 「ん。翼」 スッ、と目元の水滴を拭ってくれた火宮が、チラリと俺の顔を窺う。 そっか。声、出ないから…。 ちゃんと悦んでいるのか確認するようなその仕草が、火宮の気遣いに思えて申し訳ない。 ーーっ、火宮さんっ…。 呼びたい名前を口に出そうと頑張ったけれど、やっぱり俺の言葉は空気を震わせることはなくて。 「クッ、気にするな。おまえは黙って感じていろ」 ククッ、と喉を鳴らした火宮が、悪戯っぽく目を細めて、ふと視界から消えた。 っあー!あぁっ…。 サラリと髪が胸を撫でたかと思ったら、チュゥッ、と片方の突起が吸われていた。 「声がなくとも、おまえの身体が正直だ」 快楽を教えてくれる、と囁く声が、ジンジンと耳に伝わる。 先輩に弄られたときは痛みと不快感しかなかったそこが、火宮にされただけでツンと尖って快感を得ているのが分かる。 あっ、アッー。 くしゃりと握り締めた髪が指の間をくすぐって、それすらもゾクゾクと下半身に痺れを呼んだ。 「翼」 嬉しそうに火宮の声が揺れ、長く綺麗な指が性器に絡まる。 っあぁ…。 形をなぞるようにゆるゆると手を動かされれば、たまらずビクビクと中心が震えた。 「良いのか」 刺激を受けた性器は素直に反応して勃ち上がっている。 先輩にされたときはクッタリと項垂れたまま、ピクリとも反応しなかったのに。 好き。好き、気持ちいい。 ただそれが、火宮の手というだけで。 ただ、あなたが穢れたその場所に、躊躇いなく触れてくれているというだけで。 ーー刃…。 あぁ、どうして声が出ないんだろう。 この想いを、この心を、どうやって伝えればいい。 ポロリと目から涙が伝って、俺は必死で目の前の身体に抱きついた。 「翼」 艶やかな火宮の笑顔が、滲んだ視界の中に見える。 ぐんぐんアップになってきたその美貌が、ぶつかるかと思った瞬間、反射的に目を閉じた。 っ…。 チュッ、と音を立てて柔らかい唇が触れたのは、固く閉じた瞳の瞼の上で。 「翼」 慈しむように柔らかく呼ばれた名前に目を開ければ、鮮やかな笑みをはいた火宮の顔が、優しく上下した。 っ! 分かって、いる、から、心配、するな? 言葉がなくても伝わる想いに、ますます涙が溢れ出す。 「翼」 『大丈夫だ』と聞こえる呼び声に、ぎゅぅ、と胸が苦しくなった瞬間、スッと俯いた火宮の顔が喉元に消えた。 っぁ…。 チクリとした首筋の痛みは、所有の刻印を受けた証だ。 ナイフに傷つけられた傷の隣に。声を失ってしまったその場所に。 っーー! ぶわっと溢れた涙の止め方が分からない。 ーー刃っ。じんっ…。 ぎゅぅぎゅぅと、ますます強く目の前の身体を抱き寄せてしまったら、「苦しい」と笑う火宮の声が聞こえた。 ハッとして腕の力を緩める。 素早く身を起こした火宮が、今度はニヤリと悪戯っぽく笑って、ストンと下の方に消えていった。 え…? っ、あぁっ! 気づいたときにはもう、勃ち上がった性器がぬるりと温かい粘膜に包まれていた。

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