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第348話※

そうして大分のんびりと、散歩をして満足した俺は、宿に戻って一息ついていた。 「もうすぐ食事だか…どうする?ひとっ風呂浴びてくるか?」 特に汗はかかなかったけれど、散歩の後だしな。 ーーうーん…。 「なんなら背中を流してやるぞ」 っ! ニヤリと笑う、その悪い顔は…。 『嫌ですよっ?一緒には入りませんからね』 嫌でも分かる、悪い予感に、急いでメモ帳にペンを走らせる。 そうしたらますます火宮の悪い笑みが深くなった。 「遠慮するな」 『遠慮じゃないです。お風呂をゆっくり楽しみたいんです』 だってあなたと入ったら、絶対にただの入浴じゃ済まなくなるでしょう? 「ククッ、なにを警戒している」 それは…。 「それとも期待か」 なっ…。 「旦那の好意を無下にするのか」 旦那って…。 もう本当、なんでそんなに楽しそうなんだ。 『本当に、本当に、背中を流すだけですか?』 「あぁ。安心しろ、もちろんそれだけだ。なんなら俺は服を着たまま入ってもいい」 『絶対ですね?』 「おまえがそういうならな」 うー。そこまで言うなら、信用していいか。 『分かりました』 まぁお風呂は入りたかったし。 メモ帳を置いて立ち上がった俺に、火宮が満足そうに微笑んだ。 っ…。 で。 やっぱり。 ひぃぁぁっ! 声が出ない喉を仰け反らせて、俺は執拗な火宮の指先から逃げるように、必死で身を捩っていた。 「ククッ、どうした?翼」 こンの嘘つき! 信じた俺が馬鹿だった。 確かに火宮は着衣のまま、やっていることも、ただ俺を洗ってくれているだけだけど。 その手つきがいやらしい。 絶対分かってやっているその触れ方が憎らしい。 っ…。 せっかく、めちゃくちゃ贅沢な景色を独り占めの、最高の露天風呂なのに。 それを楽しむ余裕もなく、火宮の悪戯な手に翻弄される身体が悔しい。 っ、やめっ…。 サワサワと、泡のついた手で脇腹を擦られて、ピクンと身体が震えた。 その手がスルリと背中に移動し、ツゥーッ、と背骨を撫でてくる。 やぁっ…ン。 ゾクゾクッと震えた身体が飛び跳ねて、中心に熱が集まったのを感じた。 はぁっ、あっ、もっ、やだ。 1度得てしまった快感は、もうどこを触られても気持ち良くて。 「ククッ、どうだ?翼。痒いところはあるか?」 とてもいい感じの力加減で髪を洗われ、頭皮を擦る火宮の指先さえ心地いい。 ンッ…。 やばいな、もう。 一応タオルは掛けてあるけど、ソコがムクムクと大きくなってしまっていることに、俺は気づいている。 「ん?翼?」 今度は前か。 胸元に滑ってきた火宮の手が、なんともヤラシく、胸の飾りの上を撫でていく。 洗われているといえばそれまでで、けれど泡のついた滑りのいいその手のひらが、突起の上を擦る度に、ゾクゾクと上がってしまう快感は堪えようがなくて。 んあっ、アッ…。 あぁ、今ばかりは声が出なくてよかった。 だってもし声を出せていたら、間違いなく嬌声を上げてしまっていただろうから。 っ…。 意地悪、と思って火宮を振り返り、睨みつける。 シラッとした顔でボディーソープを泡立てている火宮は、あくまで洗ってやっているだけだ、という表情をしていて。 っーー!このどS。バカ火宮! そうやって、俺の反応を楽しんで、ギリギリまで追い詰めて。 「なんだ?翼。洗うだけにしろ、と言ったのは、おまえだからな」 この揚げ足取り。 そういうところが、本当、意地悪。 っ…。 「ん?ほら」 今度は足、と前に回り込んできた火宮の、服をしっかり身につけたままの姿を見て、俺の中で何かがプツンとキレた。 「ッ…」 へっへん、ざまぁ。 ほら、服脱ぎなよ。 きゅっ、とおもむろに、シャワーの蛇口を捻ってやった俺は、ザァァッ、と降り注いだお湯でずぶ濡れになった火宮に笑ってやる。 「こいつめ」 ニヤリ、と妖しく頬を持ち上げた火宮が、バシャ、ビシャッと濡れた服を脱ぎ捨てた。

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