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第5話 ネガティブ勇者、期待を押し付けられる

 災厄訪れし時、王家の血を持つ者の呼び掛けに応え、異界の勇者、降臨す。  その言い伝えにより、レインズが行った儀式でこの世界エリレオを救う勇者、ナイが召喚された。  その証に首筋に勇者の紋章、そしてテオにより特別な力があることも証明された。  ダナンエディア国、シュヴァーンハイランド城。玉座に座るこの国の王、レインズの父にナイが正真正銘の勇者であることを話した。  王、そして数人の騎士達は勇者の存在に歓喜の声を上げた。これで世界は救われる。そう確信するような眼差しを、皆がナイに向けるのだった。 「よくぞ参られた、異世界の勇者よ」 「は、はい。降谷ナイです」 「うむ。勇者ナイよ。この世界は今、150年前に倒されたはずの魔王が目覚め、世界は魔物に脅かされている。なぜ魔王が目覚めたのかまだ分からない。だがしかし、魔王がこの世に再び現れたことは事実。さすれば、こちらもまた150年前と同様に勇者を召喚し、魔王を討伐するしか術はないのだ。どうか、この世界のために戦ってくれるか?」  王の長い話に、ナイは今すぐにでも逃げ出したかった。  なんで、自分が戦わなきゃいけないのだろう。目の前の王様のことも、周りにいる騎士やメイド、この世界の人達のことを誰一人として知らない。  それなのに、何故みんなこんなにも無責任なんだろう。ナイは叫び出したい気持ちでいっぱいだった。  それと同時に、分かったことがある。たまに図書館で読んでいた小説の主人公。今のナイと同じように異世界に呼び出された、またはこの世界の人物に転生して勇者として戦う物語。大抵、彼らは二つ返事で勇者になる。この世界のために戦うと序盤で決意するものが多い。  ナイは不思議で仕方なかった。なんで元々は普通の学生や一般人だったはずの主人公がそんな簡単に決意できるのか。彼らなりの葛藤や思うところがあったのかもしれないが理解できなかった。  だが、今やっとナイは一つの答えを導き出した。  断らないんじゃない。断れないのだ。周りの目が、痛いくらい突き刺さる羨望の眼差しが、一身に向けられた彼らの期待が、それを許さない。ノーと言える空気なんかじゃない。  ここで断れば皆が絶望するだろう。世界の終わりに嘆き悲しむだろう。そして何も出来ない無能な勇者を蔑むことだろう。  ただでさえ、ナイは育ってきた環境から人に反発するようなことが出来なかった。  ここで断ったら、何をされるか分からない。  逆らったりしたら、殴られる。  大人しく言うことを聞いていれば、酷いことはされない。  フラッシュバックされる過去の記憶。毎日のように浴びせられた罵倒や暴力。  消えたはずの傷が痛むような感覚までする。  戦いたくない。逃げたい。帰りたい。  でも、どこに逃げればいい。帰る場所もないのに。  卑怯だ。この世界に居場所もないナイに、イエスしか選べない選択肢を与えるなんて。 「わ、わかりました。僕に、出来ることなら……」  精一杯の愛想笑いを浮かべ、そう答える。  周りからは歓声が上がり、王からは手厚い報酬を約束された。  皆がナイに向けて勇者様、勇者様と声をかける。世界を救ってください。助けてください、と。  その声の重みが、ナイの体を押し潰しそうになる。  全身が震える。立っていられない。怖い。それでも、笑っていなくちゃいけないのに、笑顔が引き攣りそうになる。心臓が、何かに握り潰されるようだ。息ができない。  だけどもう、引き下がれない。 「ナイ様、今日はもうお休みになりましょう。お部屋に案内します」  レインズに背中を押され、ナイはビクッと肩を震わせる。  反射的に頷くと、ナイはレインズに手を引かれ、用意された部屋へと連れていかれた。 「ナイ様のお部屋は私の部屋のお隣にしてもらいました。もし何かあれば遠慮なくいらしてください」 「あ、ありがとうございます……」 「それからお食事ですが、お腹は空いていませんか? 我が国の食事が異世界の方のお口に合うか分かりませんが……」  部屋に着くまでの間、レインズはずっとナイに話しかけ続けた。  気付けば、さっきまでの息苦しさはなかった。

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