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第18話 ネガティブ勇者、風呂に入る

 初日の訓練を終え、ナイはクタクタになって部屋に戻った。  さすがに体が疲れてるときならあのベッドでも眠れるだろう。そう思って部屋に戻るなりすぐ横になってみたが、どうにも体に馴染まない。  柔らかくて気持ちいいのに、眠ることが出来ない。 「……はぁ」  思わず溜息が零れる。  新しい環境に体が付いていけてない。ナイはまたクローゼットに引き籠ってしまった。 「……疲れた」  今までの生活を思えば、体を動かした疲労感は良い疲れだ。  元の世界では体育の授業も見学することが多かった。毎日暴力や強姦されているせいでマトモに動けなかったから。  もし倒れたりして病院にでも運ばれると体の傷がバレると思ったのかナイの親は体育を見学をすることには何も言わなかった。  でも今はもう全力で体を動かせる。これは少し、気持ちがいい。  ふと、コンコンとドアがノックされる。  レインズだろうか。ナイはフラフラしながらクローゼットを出て、ドアを開けた。 「……はい」 「レインズ様から風呂場を案内するように言われた。来い」 「おふろ?」  ナイはこの世界に来てまだ一度も体を洗ってないことに気付いた。  昨日は汗を掻くほど動かなかったから良かったが、今日はそうもいかない。 「それから、レインズ様は公務があるから今日は夕食を共に出来ないと仰っていた」 「公務……お仕事?」 「そうだ。あの方はお前が思ってるような人じゃない。日々国民のために忙しくしているんだ。ただ守られてるだけのお人じゃない」 「……あ、あれは、その……ごめんなさい」  始めた会った時のことを思い出す。  ナイは何も知らないで勝手なことを言ったと後悔するが、全てを反省するつもりはなかった。  何も知らない、この国と無関係の自分に勇者という枷を嵌めて魔物と戦えと言われたことは事実。  勇者として戦うことを決めたが、その気持ちだけは変わっていない。 「まぁいい。こっちだ」  アインに案内され、風呂場へと向かった。 ーーー ーー  ナイの部屋から歩くこと十数分。  連れてこられたのは大浴場。白を基調とした脱衣所と、大理石で出来た内風呂。外には広大な自然を見渡せる露天風呂。  ナイはその広さに圧倒された。スペースの無駄遣いとも思った。  不幸自慢がしたい訳ではないが、ナイは風呂もちゃんと使わせてもらえなかった。毎朝親が寝てる時間帯に水道の水で体や髪を洗っていた。その自分がこんな広いお風呂に入れるなんて、想像もしていなかった。 「使い方は分かるか」 「え、えっと……」 「……教える」  アインは溜息をつき、風呂場の説明をした。それから夕食の支度があると言って、風呂場を出ていった。  一人残されたナイは、周りに誰が居ないことを確認してから服を脱ぎ始めた。  誰かと一緒に風呂に入ってことはない。裸になるのが恥ずかしいとは思わないが、知らない人がいると少し気まずい。  浴室に入り、シャワーを浴びる。  こんなにしっかりと熱いお湯を頭から浴びるなんて、初めてだ。  気持ちがいい。疲労感が和らいでいくような気がする。ナイは暫く体も洗わずそのままボーッとしていた。 「あー……」  誰もいないからか。疲れているせいなのか。お湯を出しっぱなしにする贅沢に罪悪感も流されていく。 「……なにも、ない」  体を見ても、そこに傷も痣もない。  本当に全ての傷がなくなったことを、自身の目で確認する。覚えてる限りの記憶を呼び起こしても、既に体には傷が出来ていた。  傷のない自分の体を初めて見る。  真っ白で、骨の浮き出た貧相な体。傷があろうとなかろうと、マトモな生活を送っていた体とは言えない。  これが、この世界の希望を担う勇者の体なんてとても思えない。  ナイはフッと嘲笑し、立ち上がろうとした。 「……あ、れ」  そこからの記憶は、ない。

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