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第23話 ネガティブ勇者、安心する
「こちらの部屋でどうでしょうか」
ナイに新しく用意してもらったのは、元々使用人が使っていたという部屋だった。ナイはその丁度いい狭さに、これくらいで十分だとレインズに感謝した。
レインズの部屋からは遠くなったが、二部屋挟んだ先にはアインの部屋がある。何かあれば彼を頼ってほしいとだけ伝え、レインズは自室へと戻っていった。
「……落ち着く」
一人になり、ナイはシングルベッドにダイブした。
適度にスプリングの効いたベッド。硬さも程よく、寝心地も悪くない。
これなら安心して寝れる。ナイは籾殻の枕に頭を置いて、目を閉じた。
部屋にはベッドと洗面台しかない。他にも何か必要なら用意するとレインズは言ってくれたが、ナイは断った。
さすがに食事を取るためのテーブルくらいはないと困るだろうと、明日の朝持ってくると言っていた。
やっと、この城での居場所が出来た気がする。
ナイは深く呼吸をして、微睡む意識に身を委ねた。
ーーー
ーー
そっと、音を立てずにドアを開ける。
暗い部屋の中には、小さな寝息だけが聞こえてくる。その音に、彼は安堵した。
「……平気そうだな」
ポツリと呟いたのは、アインだった。
ナイの部屋を移動したと報告を受け、風呂場で倒れたときに魘されたこともあり少し心配になって様子を見に来たのだ。
もしまた魘されているようなら主人であるレインズに伝えた方がいいと思っていたが、もう大丈夫そうだ。
本当は風呂場でのことも悪夢に魘されていたことも報告すべきだと思ったが、ナイはあまり知られたくないと判断して伝えなかった。
自分なら、あまり知られたくないと思ったからだ。
アインはドアを閉じて自室へと戻った。
レインズが勇者を常に気にしているから、自分まで心配になってしまったとアインは心の中で思う。
レインズは勇者召喚を行うと決めてからずっと、どんな人が来るのだろうと目を輝かせていた。だが召喚されたのは自分とあまり歳の変わらない貧弱そうな少年。
アインはガッカリしたが、レインズはそんな様子を見せなかった。
正直、どんなに魔力が強大で防御力が高くても本人にその意思がなければ意味がない。アインは彼にこの世界が救えるのか今でも不安に思ってる。
レインズが彼に何を期待しているのかも分からない。アインにとって主人の言うことは絶対。主人がイエスと言えばイエスと返す。
だからレインズが勇者というなら彼は勇者だ。そこは間違いないのだが、自分の命を預けられそうには見えない。
そして何より、ナイ自身に生きたいという思いがない。アインは昔の自分に良く似ているからこそ、ナイの思いが少しは理解できた。
王族への劣等感。いつ死んでも良いという気持ち。アインにもそう思う時期があった。
アインは部屋のベッドに横たわり、左胸に手を当てた。
ナイがどう思おうと自由だが、レインズに何かあっては困る。
自分の命より大事な主人。
酷なことだが、勇者には世界を、この国を守ってもらいたい。そのために、ナイの心を利用したとしても、守らなきゃいけないものがある。
アインは天井を仰ぎ、その覚悟を瞳に宿した。
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