31 / 100

第31話 ネガティブ勇者、目を輝かせる

 城に戻り、レインズは王に鉱山探索の許可を貰いに行った。  ナイとアインは明日に備え、地図を広げてルート確認をする。  リーディ鉱山はダナンエディア国からずっと北にあり、常に雪で覆われている。その為、採掘に来る者が少なく、未探索のエリアも多い。  本来なら専門家と共にそれなりの人数で挑むべき場所だが、テオが言っていたように水晶のある地下は神聖な気に満ちている。迂闊に乗り込んで気の流れを乱したら鉱石の純度を下げてしまう恐れがある。  今回は大掛かりな鉱石採掘ではない。目的の水晶だけ持ってくればいいだけなので、三人でも問題はないだろうとテオは言っていた。 「ア、アイン。魔物、って……どういうの?」 「お前の世界にはいなかったのか」 「う、うん。動物とかならいたけど……」 「そうだな……獣であることに変わりはないが、魔王の力に影響を受けて邪悪化した獣が魔物だ。凶暴で人間を見境なく襲ってくる」 「っ……」 「あの辺の魔物は大して強くない。むしろ雪山を歩く方がキツイ」  アインは地図を見ながら、なるべく歩きやすい道を選んでいる。しかし地図の見方もどこに何があるのかもナイには分からない。 「どれくらい、遠いの?」 「普通に行けば三日かかる」 「みっ、か!?」 「だが転送魔法で近くの国まで移動すれば数時間で着く。その為の許可をいまレインズ様が手続している」 「許可、が、いるの?」 「当然だ。転送魔法陣は各国にあって、きちんと手続きを踏んで使用許可を取ればいい」 「……魔法って、本当に凄いね。ワープまで出来ちゃうんだ……」  それは科学では出来ないこと。漫画やアニメでしか見ないこともこの世界なら実現できるのだと、ナイはより一層魔法への関心を強めた。 「転送魔法はかなり高度な魔術らしいが、その基盤を作ったのは先代の勇者だって話だぞ」 「え!?」 「昔、テオ様が仰っていた。150年前に召喚された勇者と当時の賢者様で作ったものだと」 「へぇ……150年前って、明治とかだよね……よくそういう発想出てきたなぁ……」 「なんだ、そのメイジって」 「えっと、年号? この世界には、何時代とか西暦とか、そういうの、ないの?」 「あぁ、聖暦のことか」  今は聖歴147年。先代の勇者が魔王を倒したときに新暦に変わったらしい。  だからナイが魔王を倒したら、新しい年号に変わるのではないかとアインは言う。さすがにそんな大袈裟なことにはしてほしくないと心の中で思った。 「ああ、そうだ。お前の防寒着も用意しておく。武器は……どうするかな。武器庫でお前に合ったもの探すか?」 「武器……そっか、武器……あの、さ……レイみたいに魔法で作れない、のかな」 「生成魔法か。お前の魔力なら出来るだろうけど、一度術式を組まないと……」 「術式……」 「魔法陣の展開式はテオ様に習ったな。そこに術式を組めばいい。大事なのはイメージだ。文字でも絵でもいい」 「そうなのか……この世界の文字じゃないと駄目なのかと思った……」  アインがその場で魔法陣を展開させ、両手を合わせた。その手の間に赤い光が放たれ、形を成していく。  現れたのは炎のように赤い刀身の短剣。アインの属性が火なのだと、ナイは察した。 「俺はテオ様やレインズ様みたいに難しい式を組むのは苦手だから簡単な言葉だけで式を書いてる。まぁ、だから強度は弱いけどな」 「……難しい式の方が、強いの?」 「まぁそうだな。いくつも言葉を重ねた方がイメージが固められるだろ」  剣一つに対して、その形状や重さ、鋭さ。そういったものを詳しく式に組み込めた方が精度も上がる。  ナイはそういうものかと納得し、まずは剣のイメージを固めるために武器庫に行きたいとアインに申し出た。 「まぁいいが……もうそろそろレインズ様が戻られると思うから、その後に行くぞ」 「わかった。その間、もう少し魔法のこと聞いても、いい?」 「あぁ、構わない」  魔法の話を聞くナイの瞳は、まるで星空の下で見たときのようにキラキラしていた。

ともだちにシェアしよう!