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第32話 ネガティブ勇者、幼い頃の夢を思い出す
リーディ鉱山へ行くための手続きを終えたレインズが部屋に戻り、ナイの魔法練習に彼も加わった。
「アインは術式の組み上げが早いので簡易魔法でも上手く立ち回れるんですよ」
「なるほど……」
「いえ、俺は難しいことに向かないだけですから。勇者の魔力量を考えたらレインズ様のように一から十までしっかり構成した方が……」
ナイの魔法の方向性を今のうちに決めようという話になり、アインのように簡易魔法を何度も連発できるようになるか、レインズのように密度の高い魔法を構築出来るようになるかで分かれた。
だがナイはどちらも状況に合わせて使い分ければいいと思い、両方のやり方を取り入れることにした。
「とりあえず……最初は簡単な方から、覚えたい、かな……」
「そうですね。テオ様も簡単な攻撃魔法を教えていましたし」
「うん。重力操作とか、空間操作? 闇属性の魔法を少し、教えてくれた」
「闇属性を持つものは少ないのでどんな魔法を得意とするのか私にもよく分からないのです。それは私の光属性も同じなのですが」
火や水など基本の四大属性ならイメージし易いが、光と闇は各々で解釈も変わる。その力を持って生まれるものも少ないせいで情報も少ない。
テオも光と闇の属性に関しては知らないことも多いとボヤいていた。
「僕、ゲームとかそういうのやったことないからイメージ湧かないけど……まぁ、使っていけばわかる、かな」
「ですね。私もテオ様と相談しながら少しずつ使える魔法を増やしてるところです」
笑顔でガッツポーズをするレインズに、ナイは少しだけ口元を緩めた。
レインズもナイと同じく剣技より魔法の方が好きで、そちらの方に重きを置いている。そういうところには、僅かながら好感を持っていた。
「……レイの剣、あれは、どういう、イメージ?」
「あの剣ですか。あれは、幼い頃に空から差す光を見て思い付いたんです。暗雲を切り裂く、天の剣。どんな敵だって倒せると、そう思ったんです」
「……」
「な、なんて、恥ずかしいこと言いましたね」
「え、あ、いや……良い、と、思うよ……」
雲間から差し込む天からの光。
ナイは昔、何かの本で読んだのを思い出した。
「……天使の、梯子」
「え?」
「空の光、確かそういう名前があったなって」
「天使の梯子……美しい名前ですね」
他にも呼び名があった気がしたが、ナイはその言葉が印象的で頭の片隅に残っていた。
まだ小さい時、あの光が自分の前に伸びてきて助けてくれるんじゃないかと夢見ていたこともあった。だけどそんな希望を持つだけ無駄だと気付き、そういった感情を捨て去った。
今になって、その光に助けられるなんて。
ナイは当時のことを思い出して、少し泣きそうになった。
「ナイ?」
「う、ううん。なんでも、ないです」
「そうですか? そろそろお疲れでしょうし、今日はもう休みましょう。明日はいつもより早めに出ますよ」
「わかった」
「それでは、お休みなさい」
「おやすみ、なさい」
レインズとアインが部屋を出ていき、一人になったナイ。
ベッドに横たわり、息を吐く。
闇を切り裂く光。
確かに彼は、自分にとっての光なのかもしれない。
そんなことを思いながら、ナイは眠りについた。
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