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第49話 ネガティブ勇者、向上心を覚える
ナイの向上心は凄まじかった。
過去を振り返らなくなったことで前に進もうとする意識が強くなった。
今までナイをその場に引き止めていた足枷が消えたから。やっと進めるようになったから。
ナイはようやく軽くなった体で、自分で思ったことを体現できる。
まだ完全に振り切った訳では無い。それでも一歩踏み出すことを覚えたナイは、ゆっくりと自分の意思で前に進める。
周りから見たら半歩であっても、それはとても大事な一歩。
ナイはそれを噛み締めながら、前を見つめているのだ。
「レイ。似てる人の魔力を識別するには、どうしたら、いい?」
「その場合は精度を上げる必要があるのですが、単純に魔力量や気の流れなど細かい違いに気付くことが出来れば……」
「なるほど……覚えること、多いね……」
「ゆっくりでいいんですよ。もう十分過ぎるくらいの完成度なのですから」
「うーん……」
どうやらまだ納得いっていないようで、ナイは何度も魔法陣を張っては周辺を探知している。
人の気配や木々、遠くに咲く草花。様々なモノの気配を知識として頭の中に詰め込んでいく。
ナイの探究心はレインズから見ても目まぐるしいものだった。没頭しすぎて心配になるところも多々あるが、最初の頃に比べたらこれは良い傾向なのだろうと思わず笑みを零してしまう。
「ナイ。一気に根を詰めすぎてもいけません。ゆっくり体を慣らしていかないと」
「う、うん。でも、もうちょっと……」
「ダメです。今日はこの辺で止めておきましょう。ちゃんと休憩してください」
レインズに止められ、ナイは渋々魔法陣を消した。
抑えていたものが一気に溢れ出したせいで歯止めが利かなくなっているのかもしれない。
レインズは自分がちゃんとナイを見ておかないとと少し苦笑いをした。
「そうねぇ。ナイの魔力が底なしでも体力はへなちょこなんだから、体も休めないとぶっ倒れるわよ」
「うっ……すみません……」
剣の訓練のおかげで多少は力も付いてきた方だが、それでも平均以下。魔力のおかげで回復が早いとはいえ、無理をしたらすぐにへばってしまう。
現に今も、ずっと集中していて気付かなかっただけで、魔法陣を解いた瞬間にドッと疲れを感じ始めている。震える足腰でどうにか立っている状態だ。
「とりあえず、精霊の泉に関して私もちょっと調べておくから、あんた達はいつでも出られるように準備だけしておいて。レインズは国王様へ報告ね」
「はい、畏まりました」
「ナイは今日は何もしないで体を休めること! 明日からもっと忙しくなるんだからね!」
「う、うん」
「夜更かし禁止!」
「は、はい!」
テオの勢いに押され、ナイは今日は大人しくしようと心に決めた。
もしレインズやアインにバレてチクられたら本気で怒られそうだと、想像しただけでナイの背中は微かに震えた。
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