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第65話 ネガティブ勇者、再び悪夢を見る

 夜が空け、ナイ達は帰り支度を済ませた。  短い間だったが、世話になったリオや集落の人達に挨拶を交わし、ドラゴンの背に乗る。 「おーい、ナイ!」  ドラゴンが飛び上がる直前、リオが背中の上にいるナイに声をかけた。  上から顔を覗かせると、いつもの笑顔で手を振ってくれている。 「また来いよ! うちにある古文書、読み終わってないだろ。あれは貴重なものだから貸出は出来ねーけど、うちに来ればいつでも読ませてやっかんな!」 「は、はい! ありがとうございました!」 「それじゃ、またねリオ兄ー!」  各々手を振り、別れを告げる。  遥か上空へと飛び上がったドラゴンは、ダナンエディア国へと向かう。 「ナイ。あとで精霊の涙を加工してくれる細工師を紹介するわ」 「加工?」 「ええ。キチンと装備として身につけられるようにしないとでしょ」  なるほど、とナイは首を縦に振った。  今はテオが魔法で保管しておいてくれているが、持ち歩くならそれらしい形にしないと様にならない。  勇者が持つに相応しい形にして、その身を守ってもらわないといけない。 「次のレア鉱石探しに関しては私の方で調べておくわね」 「うん。ありがとう、テオ」 「いいえ。貴方のお役に立てるなら、どうってことないわ」  テオの笑みに、ナイも笑顔で返す。  今回のことで勇者に関してみんな思うところはある。精霊の言葉は曖昧なもので確定できる答えをくれなかった。  テオもレインズもいつもの笑顔を浮かべてはいるが、たまに遠くを見るような目をしてる。  昨晩ナイと話をしたアインもどこか上の空だ。  自分の中で一つの答えを導き出したナイは、他の三人と違って落ち着いていた。 ――― ――  城に戻り、ナイ達を送り届けたテオはそのままドラゴンに乗って帰っていった。  空を飛ぶドラゴンの姿に、ナイはあんな大きなものに乗っていたのかと溜息を吐いた。 「それじゃあ、部屋に戻りましょうか」 「あ、うん」 「俺は荷物を片付けてから夕食の準備をしますので」 「ありがとう。では、その頃にナイの部屋へ行きますね」 「わかった」 「色々ありましたし、ゆっくり休んでくださいね」 「……うん」  真っ直ぐ部屋へと戻り、ナイはベッドに倒れるように横になった。  数日空けていただけだったが、こうして久々に部屋に戻るとこの場所を気に入っていたんだと実感する。  ロッサの集落も悪くなかったが、自分の希望を通して用意してもらったこの部屋は特別居心地が良い。ナイはちょっと横になるつもりで、そのままうたた寝をしてしまった。  その日、ナイは久しぶりに夢を見た。  いつもの悪夢ではない。まるでこの世界に召喚されたときのような不思議な浮遊感がある。  まさか、また召喚されるのでは言う不安感が募る。  元の世界に帰りたくない。ここに居たい。  ナイは逃げ出したかったけど体が動かず、ただただ怖い思いが胸を締め付けた。 「        」  何か声が聞こえた気がした。  だけど、何を喋っているのか聞き取れない。  ナイも何か言おうとしたけど、口も動かなかった。  声が聞き取れないのに、何か喋っていることだけはハッキリわかる。  この空間は一体何なんだ。ナイは不可解なこの夢に、前まで見ていた悪夢とは少し違う恐怖がある。  単純に怖い。  助けて。  ナイは必死に心の中で叫んだ。  助けて。助けて。助けて。 「  」  また声がする。  ナイはひたすら叫んだ。  誰かに届くように。 「ナイ!」  その声に、ナイはハッと目を覚ました。  全身から汗が噴き出して不快感がある。ナイはバクバクと高鳴る胸を抑えて、周りを見渡した。 「……レイ」 「大丈夫か、ナイ? 魘されていたから心配したんだぞ」 「……だ、だいじょう、ぶ……ちょっと、変な夢、見ただけ……」  レインズに支えられながら、ナイは体を起こした。  肩で息をしながら呼吸を整える。あの夢は何だったんだろう。ナイは聞き取れなかったあの声のことを思い出す。  あれは何を言いたかったんだろう。ナイに何か伝えたいことがあったのだろうか。  考えても分からない。  ナイはレインズの服の裾をギュッと握り締め、恐怖に耐えるように目を閉じた。 「……ナイ?」 「大丈夫……大丈夫、だから……」  レインズはナイの背中をポンポンとあやすように規則正しいリズムで叩く。  汗ばんだ背中と、震える手。  前に進もうとするナイの足を何かが掴んで阻止しているような気がして、レインズは怖くなった。  リオが言っていた黒い影のこともある。  自分に何かできることはないのだろうか。レインズはナイを落ち着かせながら、考える。  ナイが笑顔になるための方法を。

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