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第72話 ネガティブ勇者、守るイメージ
次の目的地。南の大陸にあるデルゼッド火山。
溶岩地帯あり、厳重な装備がなければ近付けない場所だ。
「あそこはどんな装備も溶かすと言われてる。それに耐えられるように身体強化は万全にね。ナイなら余裕で大丈夫だろうし、火の属性を持ってるアインもまぁ心配ないかもだけど……今回私は行けないわ。水属性は相性が悪いから」
テオが残念そうに肩をすくめた。
となると、今回はまた三人での攻略になる。場所が場所なだけに今まで以上に慎重にならないといけない。ここではナイの防御の力がとても重要になってくる。
「ナイ。防御結界の張り方を覚えましょうか」
「結界?」
「ええ。魔力で周囲を覆い、バリアを張るのよ。そうすればマグマから身を守れるようになるわ」
「う、うん」
「そんなわけで、ナイはお勉強。レインズとアインは旅支度!」
テオに指示され、レインズとアインは即座に支度を始めた。
さすが鶴の一声。一国の王子様に命令出来る少女などテオ以外にはいないだろう。
相変わらずの手際の良さにナイは心の中で拍手した。
「さて、ナイは結界に必要な術式を覚えるわよ。そしてイメージは強固に。灼熱の溶岩に負けない強いイメージを作るのよ」
「い、イメージ……」
「そうよ。術者のイメージ次第で結界の強度や形も変化する。ナイは異界の人ならではの特殊なイメージがある。貴方の世界で人を守れるもの……ううん、熱から身を守るものでもいいわ。空間を覆い、外部を遮断できるもの。何でもいいわ」
「身を守るもの……」
ナイはうーんと唸りながら考える。
結界と言われても言葉だけでは耳馴染みがなくてピンと来ない。
自分と守り、外部からの攻撃など害あるものを遮断するもの。
ナイはどうやって自分を守っていたのかを思い出す。
あの地獄の中で自分を守っていた場所。そのイメージ。
狭くて、四角い、薄い襖一つで隔たれた空間だけど、そこは間違いなく自分を守ってくれた。
あの世界で唯一、息を吸える場所。
そのイメージに応えるように、ナイの足元に魔法陣が展開されて周囲を魔力の薄い壁で包み込んだ。
「あたっ!」
「うわっ!? 急に防御結界張らないでよ!」
「え、あれ?」
「それに、これは狭すぎ!」
ナイが張った結界は立ち上がれないほど狭く、椅子に座っていた二人とも後ろに倒れてしまった。
高さは丁度テーブルと同じくらい。幅は一畳ほどだろうか。
まさに押し入れサイズ。ご丁寧に襖のような引き戸もある。
「外部の音も全く聞こえないし、誰の気配も魔力も感じられない完璧な閉鎖空間だけど、これは狭いわ。四つん這いになって歩いていくってならいいけど」
「そ、そうだよね……」
「この結界を自分の周りに展開した状態で歩くんだから、もう少し高さと広さがなきゃダメよ。やり直し!」
「う、うう……」
そのあと、結界のイメージを完璧にするまでテオとのお勉強会は続いた。
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