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第71話 ネガティブ勇者、いつも通り
翌朝。目を覚ましたナイは変な夢を見なかったことに安心した。
気持ちを切り替えるように顔を洗い、いつものように精神統一を行う。
昨日あんな夢を見たにしては心は落ち着いている。これもアインのおかげだろうか。ナイは小さく息を吐いて目を開けた。
「……うん、大丈夫」
レインズに夢から救い出してもらって、アインに勇気をもらった。
二つの異なる光が、自分の道を照らしてくれる。またいつあんな夢を見るか分からないけど、不安に感じていたら昨日みたいなことになってしまう。
ナイは胸に手を置いて、自分の心音を確かめた。
苦しくない。安定している。今のところ、不安感もない。
できれば、ああならないように気を付けたい。次も確実に戻ってこれるか自信がない。
毎回二人に迷惑をかけるわけにはいかない。自力で立ち向かわないといけない。
そのための勇気は、もらっている。
「これは、失うものになるのかな」
ナイは零すように笑った。
暫くして、朝食のワゴンを持ったアインと共にレインズが部屋に来た。
いつも通りの優しい笑顔。アインもいつも通りテキパキと準備をしている。
まるで昨日のことなんてなかったみたいに、いつも通りだ。
ナイもいつも通り二人に朝の挨拶をして、朝食の席に着いた。
「ナイ。今日はテオ様が城に来てくださいます。書庫に直接行くというので、朝食が済んだら我々も行きましょう」
「う、うん。でも、なんで? いつもはテオの家に……」
「お話があるそうです。精霊の涙の加工についてナイに相談したいと」
「僕に……?」
「ええ。それと、次のレア鉱石についても」
またどこかに鉱石探索へ行くことになるのだろうか。
楽しみな半面、少し怖い。ナイはまた精神が不安定になったらどうしようと。
だけど、今は魔王との戦いに備えて戦力を強化しなくてはいけない。
敵がいつ動き出すのか分からないのだから。
―――
――
「おっはよー、ナイ!」
書庫に行くと、元気そうにテオが手を振っていた。
テオの座るテーブルに皆が着き、今後の行動について話し合う。
「それで、僕に話って?」
「あー、そうそう。身に着ける装備品のことなんだけど、どういう形のものがいい?」
「か、かたち?」
「指輪とかネックレスとか」
「ぼ、僕、そういうの付けたことないから分からない……でも、そうだなぁ……指輪は、なんかイメージ湧かないかも」
「じゃあネックレス? ああ、耳飾りとかもアリね」
「うーん……ネックレスの方が、いいかな」
「オッケー! じゃあその方向で行きましょう。それじゃあ次の鉱石探しね」
テオはパチンと指を鳴らし、モニターを表示させた。
そこに映っているのは溶岩に囲まれた火山だった。
「……え、もしかしてここに行くの?」
「ここはデルゼッド火山ですか」
「そうよ。ここにも精霊がいる。炎の加護を持つ精霊がいて、彼女の加護を受けることが出来れば武器強化が望めるわ」
「武器強化?」
「まだ宝剣は見つかっていないけど、加護さえ受けておけば所有者の武器を強くしてくれるわ」
宝剣。その言葉を聞くたびに心が少し乱れてしまう。
まだ勇者の証は見つからない。この精霊の加護が無駄にならなければいいのだが、とナイは心の中で不安を抱いた。
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