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第70話 ネガティブ勇者、彼の笑顔のために。

「……」  不穏な気配を感じて様子を見に来ていたレインズは、二人の様子をずっと見ていた。  駆けつけた時にはもうナイの意識は戻っており、不穏な雰囲気も消え去っていた。ホッとして二人の元に近付いていこうと思ったのに、何故だか足が動かなかった。  あの二人の間に入れる気がしなかった。  遠くの柱の陰から、情けなく様子を覗く姿は国民に見せられたものじゃない。レインズは今の自分に嘲笑した。  ナイの様子が元に戻っていたことは嬉しい。そのためにアインが頑張ってくれたことも、主人として褒めてやらねばならない。  それなのに、何故か胸の奥がもやもやして息苦しさすら感じてしまう。  どうしてこんな風に感じてしまうのだろう。レインズは二人に気付かれないようにその場を後にした。 ――― ――  自室に戻り、レインズは椅子に座って机に肘を置いた。  余計なことに心を乱すな。自分にそう言い聞かせ、深く呼吸をする。  ナイと違い、レインズはそういった経験が無くとも知識としてはある。いずれは一国の王となり伴侶を取る。  だから今、ナイに向けるこの想いに名前を付けようと思えば容易いことだ。  だけどそれはしたくなかった。レインズ自身、この気持ちがナイに対してなのか勇者という存在に対してなのか、自信が持てないからだ。  今すべきは悩むことではない。  レインズは気持ちを切り替え、再びナイの影について調べる。  この国の資料では霊に関する記録は少ない。霊脈というものも砂漠地帯にしかない。アンデッドやゴーストの魔物は出現するが、あくまでそれは魔物。死者の魂は天に召され神の御許に還るとされている。だからまさか霊脈なんてものを築くほど、この地に霊が残っているなんて思いもしなかった。  ナイの黒い影。それがリオにしか見えないものであるなら、あれは霊に関する何か。もしくは魔術では証明できない存在。この世界の理から外れたものかもしれない。 「……かといって、生死をさ迷うことなど容易にできることではないし、出来ればしたくはないが……」  リオがその力に目覚めたのは生死をさ迷うほどの大怪我をしたから。  同じような経験をすればレインズにもその力が目覚めるかもしれないが、確実に手に入るとは限らない。そんな命懸けの賭けをするわけにもいかない。 「リオの他に同じ力を持っている人がいればいいんだが……」  水晶を経由し、書庫の情報を魔法で引き出す。  無数のモニターを表示させ、霊に関する情報を一つ一つ見ていく。  しかし、該当する情報は出てこない。  集落にあったような古代の書物は城の書庫には置いてない。もっと貴重な文献を調べてみないと、今欲しい答えは出てこないかもしれない。 「明日、テオ様にお話を伺わないといけないな……」  レインズは椅子の背もたれに寄りかかり、小さく息を吐いた。  ふと、先ほどの光景を思い出す。  ナイはまだアインと一緒にいるのだろうか。明日はまた、笑ってくれるのだろうか。  窓の向こうに見える夜空を見ながら、レインズは彼のことを思った。

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