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第77話 ネガティブ勇者、気付く
「…………んっ」
体を縛られているような感覚に、ナイは目を覚ました。
何が起きたんだろう。ゆっくりと目を開けると、鼻先が触れそうなほど近くにレインズの顔があった。
驚いて顔を後ろに下げようとすると、背後からナイを抱きしめるアインとぶつかった。
マグマの吹き出す後孔に飛び込んだ時、二人が前と後ろからナイを抱きしめて守ろうとしてくれていた。そして今も、意識がないのにナイを離そうとはしない。
「……ありがとう」
まだ目の覚まさない二人に、ナイは小さな声でお礼を言った。
とりあえず、現状を把握しなければならない。
ナイは周辺を魔力察知した。まず二人の体に外傷はない。魔力を使いすぎて意識を失っているだけのようだ。
そしてこの場所。マグマの中に飛び込んだのに、ここには何もない。灯り一つなく、何の気配も感じられない。精霊の力を感じて飛び込んだというのにハズレだったのだろうか。ナイの胸に不安が過る。
「いつまで寝てるんですー?」
急に声が響き、ナイはビクッと体を震わせた。
壁面からマグマが流れ込み、部屋中が赤く染まっていく。ナイ達が倒れていた通路の脇にマグマが溜まり、その流れの先には祭壇のようなものが置かれていた。
その祭壇の中心。そこから噴き出すマグマが形を成していき、精霊が現れた。
砂漠で出会った水の精霊と同じような、火を司る精霊。美しい女性の姿。
「……う、ん。ここは、どこでしょうか……」
「俺ら……無事、なのか」
二人が目を覚まし、ナイの体を離した。
ようやく動けるようになったナイは立ち上がり、精霊の元へと歩み寄った。
これだけのマグマに囲まれているのに、不思議と熱くはない。ナイが結界を張っているわけでもない。つまり、これは精霊の力によるものだろうか。
「おはよー、お寝坊さんたち。マグマに突っ込むなんて無茶するのね。今代の勇者様って」
「え、えっと……この地の、精霊、だよね」
「それ以外に見えるのかしら? 降谷ナイ。哀れな道を行く希望の子」
「……またそれ。勇者って、何なの?」
「知ってるはずよ。精霊は答えを語る言葉を持ち合わせていないと」
精霊の言葉に、ナイは言葉を飲み込んだ。
あくまで精霊は導き手。答えを出すのは、自分自身。
「んで、貴方達は私の加護を受けに来たのよね」
「そうです。貴女の力は加護を与えた者の力を増幅させる。我々は来るべき魔王との戦いのためにその力が必要です」
「ふーん。宝剣の存在にも気づいてないのに?」
「っ! それは……」
宝剣の名を出され、ナイは唇を噛んだ。
勇者の証を持たない、勇者。ずっとナイが引っかかっているもの。どんなに力を付けても、それがないことには魔王に立ち向かえない。勇者しか魔王に勝てないという理由の一つ、それが宝剣なのだろう。
だからそれを見つけ出さなければ、勇者としての役目を果たせない。
「……仕方ないわね。可愛そうな勇者のために、助言をしてさしあげましょーか」
「助言?」
「そう。勇者と宝剣は表裏一体。つまり表と裏。二つで一つ。貴方にとって、そんな存在がいる?」
「…………分から、ない」
「本当に? だったら、もう一つ特別大サービスしてあげよっか」
精霊はニヤリと微笑んだ。
「宝剣とは、すなわち魔王を倒すための力。闇を裂く光の剣」
一つ一つが点となり、線を繋げていく。
それらが意味するもの。それに当て嵌まるピースは一つしかない。
ナイの力。闇と対になる存在。恵まれる者と、恵まれなかった者。
ゆっくりと、隣を向いた。
そこに立つ、キラキラと光り輝く存在。
「レイ……」
それは、この世で唯一の光の剣。
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