77 / 100

第77話 ネガティブ勇者、気付く

「…………んっ」  体を縛られているような感覚に、ナイは目を覚ました。  何が起きたんだろう。ゆっくりと目を開けると、鼻先が触れそうなほど近くにレインズの顔があった。  驚いて顔を後ろに下げようとすると、背後からナイを抱きしめるアインとぶつかった。  マグマの吹き出す後孔に飛び込んだ時、二人が前と後ろからナイを抱きしめて守ろうとしてくれていた。そして今も、意識がないのにナイを離そうとはしない。 「……ありがとう」  まだ目の覚まさない二人に、ナイは小さな声でお礼を言った。  とりあえず、現状を把握しなければならない。  ナイは周辺を魔力察知した。まず二人の体に外傷はない。魔力を使いすぎて意識を失っているだけのようだ。  そしてこの場所。マグマの中に飛び込んだのに、ここには何もない。灯り一つなく、何の気配も感じられない。精霊の力を感じて飛び込んだというのにハズレだったのだろうか。ナイの胸に不安が過る。 「いつまで寝てるんですー?」  急に声が響き、ナイはビクッと体を震わせた。  壁面からマグマが流れ込み、部屋中が赤く染まっていく。ナイ達が倒れていた通路の脇にマグマが溜まり、その流れの先には祭壇のようなものが置かれていた。  その祭壇の中心。そこから噴き出すマグマが形を成していき、精霊が現れた。  砂漠で出会った水の精霊と同じような、火を司る精霊。美しい女性の姿。 「……う、ん。ここは、どこでしょうか……」 「俺ら……無事、なのか」  二人が目を覚まし、ナイの体を離した。  ようやく動けるようになったナイは立ち上がり、精霊の元へと歩み寄った。  これだけのマグマに囲まれているのに、不思議と熱くはない。ナイが結界を張っているわけでもない。つまり、これは精霊の力によるものだろうか。 「おはよー、お寝坊さんたち。マグマに突っ込むなんて無茶するのね。今代の勇者様って」 「え、えっと……この地の、精霊、だよね」 「それ以外に見えるのかしら? 降谷ナイ。哀れな道を行く希望の子」 「……またそれ。勇者って、何なの?」 「知ってるはずよ。精霊は答えを語る言葉を持ち合わせていないと」  精霊の言葉に、ナイは言葉を飲み込んだ。  あくまで精霊は導き手。答えを出すのは、自分自身。 「んで、貴方達は私の加護を受けに来たのよね」 「そうです。貴女の力は加護を与えた者の力を増幅させる。我々は来るべき魔王との戦いのためにその力が必要です」 「ふーん。宝剣の存在にも気づいてないのに?」 「っ! それは……」  宝剣の名を出され、ナイは唇を噛んだ。  勇者の証を持たない、勇者。ずっとナイが引っかかっているもの。どんなに力を付けても、それがないことには魔王に立ち向かえない。勇者しか魔王に勝てないという理由の一つ、それが宝剣なのだろう。  だからそれを見つけ出さなければ、勇者としての役目を果たせない。 「……仕方ないわね。可愛そうな勇者のために、助言をしてさしあげましょーか」 「助言?」 「そう。勇者と宝剣は表裏一体。つまり表と裏。二つで一つ。貴方にとって、そんな存在がいる?」 「…………分から、ない」 「本当に? だったら、もう一つ特別大サービスしてあげよっか」  精霊はニヤリと微笑んだ。 「宝剣とは、すなわち魔王を倒すための力。闇を裂く光の剣」  一つ一つが点となり、線を繋げていく。  それらが意味するもの。それに当て嵌まるピースは一つしかない。  ナイの力。闇と対になる存在。恵まれる者と、恵まれなかった者。  ゆっくりと、隣を向いた。  そこに立つ、キラキラと光り輝く存在。 「レイ……」  それは、この世で唯一の光の剣。

ともだちにシェアしよう!