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~淫らなゲームは終わらない・01~

笠井邦彦(かさいくにひこ)。 彼は裏社会では名の知れた「少年調教師」だ。 少年から青年を「調教」し、地位と名誉がある発注者が希望する「レベル」にしてから送り返すのが彼の仕事だ。 笠井がこの職業に就くまで何をしていたのか・・誰も知らない。 笠井の風貌は、職業とは裏腹に…端正な顔立ち、白い肌、長い睫、少し灰色がかった瞳。ふわっとしたクセ毛の、綺麗な艶のある淡い茶色の髪が肩まで届いている。オーダーメイドであつらえた高級生地のスーツを着込み、シルクのネクタイ。これがだいたい彼のいつもの格好だ。仕事にかかる時はジャケットを脱ぎ、白衣での出で立ちとなる以外は、いつもこのスタイルである。 年齢は20代中頃から後半だろうか・・、誰もが気にはなるが笠井は年齢を口にしない。聞かれてもフッと笑ってそのまま流されてしまうからだ。そして、笠井の過去を知る者は、今現在関わっている人間の中には誰もおらず、聞いてはいけないという雰囲気を常時纏っている。 たくさんの器具が入るドクターバッグを2つ抱え、スーツケースを引きながらピンと張った背筋で颯爽と歩く・・・笠井は今日は独自で持っている治療室ではなく、とあるビルに向かっていた。 都会の表通りから2本入り組んだ道にそびえる、少ししゃれっ気のあるビルに入ると笠井はそのまま見知ったビルの中を進み、エレベーターで最上階の15階を押す。エレベーターは窓もなく防犯カメラだけが笠井を追い続けている。 目的の15階でドアが開くと男が2人目の前に立っており、来訪者に睨みをきかす。だが、これも笠井にとってはいつもの光景だ。 「お待ちしておりました。番号は変わっておりません。」 男たちは、笠井にそう告げるとそのままエレベーター前での防犯に戻る。笠井はそのまま進み、電子ロックで閉ざされた部屋を慣れた手つきで開錠する。 ピピピピ、、ピッ ガチャリと鍵が開く音が廊下に響き、また静寂が訪れる。 「まったく・・・、いつまで番号を変えないのやら・・」 笠井はふぅ、と溜息をつくと、4回落ち着いた調子でノックし、ノブを引いて部屋の扉を開いた。 部屋の中は、高級な調度品や手織りの柔らかな絨毯、高級な絵、幾重にも光を放つシャンデリア、重厚なソファ・・・。どこを見ても、笠井が最も好まない部屋だ。セレブにも色々いるが、どうもこうして金で作られたような部屋を笠井は好まない。 「・・・笠井。待っていたよ。時間をしっかり守る若者はいいね。」 今回の発注者が笠井を待ち構えていた。 地位も名誉もある妻帯者で40代後半。整えた鴉の濡れ羽色のように艶やかな短い黒髪、決して派手ではない眼鏡、キリリとしたつり目がちの黒い瞳。笠井ほどではないが端正な顔立ち。育ちの良さが滲み出るような穏やかな表情。笠井と同じくオーダースーツを身に纏っている。ダークグレーのスーツは発注者の清潔感を一層際立たせ、およそこれから調教を発注するような人間には見えない。 発注者は、爽やかな笑みを携えつつも、笠井の身体を隅々までじっくり舐め摂るように視姦しているのが分かる。発注者の瞳は、笠井のふわりと軽い髪・・・顔・・・瞳・・・睫の先・・薄いピンクの唇・・・首筋・・・肩のライン・・と、流れるように動いている。そして、胸元・・・特に胸の2つの突起があるであろう場所をまるでジャケットやシャツがないかのように見ると、満足げな表情が更に深みを増した。 更に発注者の視点は、まだ何も反応していない笠井の中心部へ動き・・・少し目を細める。そのまま双方無言の時間が過ぎていく。数分足らずのことなのだが、笠井は発注者が自分を視姦する時間は大切な駆け引きの道具として使っている。 数分後、笠井が口を開いた。 「今回のご発注は・・・」 そう笠井が言いかけると、発注者はそれを遮るように話した。 「まぁ、そんなに急くことはない。久し振りの対面なんだ。ラクにしていってくれ。君が好きな赤ワインも届いている。オーストラリアから取り寄せた極上品だ。」 発注者にとっては、笠井との逢瀬も、笠井に発注するときの楽しみのひとつだ。確かに笠井は美しく、引き締まった身体、淡い白い肌の持ち主であり、少年や青年が好きな好色者には身震いするほどに抱いてみたい相手だろう。客はいつも笠井をもてなそうとするが、笠井はディナーなどは断り行く事もない。仕事前に部屋で行われる交渉時だけ、少しの酒を飲む程度だ。もちろんそこに薬が含まれていることを考慮し、封は目の前で開けてもらうことを徹底している。 発注者はワインオープナーを片手にゆっくりと赤ワインの封を開けている。その様子には無駄な動きがなく、発注者の暮らしぶりを連想させた。 そんな様子を見ながら、笠井はゆっくり話す。 「今回のご発注内容は?」 発注者はヤレヤレといった調子で肩をすくめると、特上赤ワインをグラスに2つ注ぎ、片方を笠井に手渡しながら口を開く。 「今回は2、もし可能であれば3だ。そして報酬はいつもの口座に入れてある。」 「前回、少々手こずりましてね・・・もう少し上げてもらえませんか。私だって今回のような出張仕事の時間は、ここに拘束されてしまうのですから・・・」 笠井は綺麗な薄いピンクがかった唇の口角をニヤリと上げ、発注者に渡されたワインを一口飲むと交渉にかかった。 つづく

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