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第5話

N市を示す案内板が目に入ると高速を降りた。 「店の予約まで時間あるし、少し観光でもするか」  車内の時計をチラリと見れば、十一時になろうとしていた。店の予約は十二時で、今いる場所から店までは二十分の所にある為、時間を潰す必要があるようだ。 「予約してくれたの?」 「そりゃするだろう」 「そっか……なんやかんや言っても、まっつんって大人って感じするよね」  珍しく声のトーンが低いように思えた。 「伊達に年は取ってません」 「三十路のおっさんだもんね」 「否定はしねえけどなーー雑貨とか好きか?」 「うん、好きだよ。どっかある?」 「アジアンテイストの雑貨屋がこの通りにあるんだけど、そこでいいか?」 「うん! 行ってみたい!」  目的に到着すると昴は目を輝かせて店内を見渡している。 「何ここ! おもしろーい」  まるでそこはバリのリゾート地のような作りで、広い敷地には雑貨屋がひしめき合い、奥にはカフェも併設しているようだ。 「このお面、まっつんに似てる」  そう言って売り物でもあるお面を松木に向けている。手に取りお面と自分の顔を並べてみる。 「俺こんな厳つい顔してるかあ?」 「あ! 写真撮りたい!」  昴は携帯を斜め掛けしているウエストバックから取り出し、お面と顔を並べている松木の姿を写真を撮る。 「ウケる」  そう言って携帯を見て笑っている。  そこから昴はせっせと写真を撮り始め、せっかくだからとカメラをインカムにして二人での写真も数枚撮った。  灰皿の置いてある喫煙場所を見つけると、「タバコ吸ってきていいか?」そう昴に断りを入れ、一服することにした。その間、昴は雑貨を見ると言って、店に入っていった。  タバコに火を点け、深く吸った。 (ヤバい……思いの外、楽しい)  ひと回り以上の歳の差があるのに、一緒にいる事が全く苦痛ではない。むしろ居心地がいい。女性とのデートでさえこんな風に楽しいと感じた事はなかった。同性だからなのか、それとも昴だからなのかーー。おそらく後者なのだろうと思う。 タバコを消し、ついでにトイレに寄ってから昴の元へ戻ろうと昴を探した。  すぐにその姿を見つけ、名前を呼ぼうとした。昴は普段は見せないような、少し悲しげな目をしていた。視線を追えば、カフェの入口でカフェのメニューを見ている男女のカップル。恋人同士であろう二人は隙間なく寄り添い、繋いでいる手を見れば所謂恋人繋ぎだ。昴はそれを羨ましそうにじっと眺めていた。 (手……繋ぎてえのかなーー俺と?)  そう勝手な解釈を松木はするが、全く検討違いの可能性はある。そんな事を聞いて確認する事もできない。  天気予報が言っていた通り、気温はぐんぐんと上がってきている。もう二十度くらいはあるように思えた。堪らず松木は上着を脱ぐ。 「昴」  昴は松木の姿を見ると、パッと顔を明るくした。  昴も着ていたスウェットを脱ぎ、白いTシャツ姿になっている。偶然にも、松木が着ているTシャツと昴が着ているTシャツのデザインが似ていた。大きめで胸ポケットが付いており、まるでペアルックのように思え、そんな風に思う自分に恥ずかしくなる。 「おかえり」 「何か買ったのか?」  手にした袋に目が止まる。 「うん、ここ面白いのたくさんあって飽きないね。あっ! 俺が着てるのと似てる!」  昴もそこに気付いたようだ。  へへへ、と少し照れた笑みを溢すと、 「ペアルックみたいだね」  嬉しそうにそう言った。  ーートスッ  松木の心臓に何かが刺さった気がした。 (本日一発目……)  昴の微笑みがあまりに無垢で眩しく、松木は思わず目を細めた。

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