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第6話
「わっ! なんかあるよ!」
そう言って、変わった椅子を発見し駆け寄って行く。
「あの子かわいいー」
「高校生かな?」
近くにいた三人組の観光客だろうか、昴に反応している。
「ナンパしちゃう?」
「どうせ彼女と来てるんだよ」
「まっつーん! 何してんの! 写真撮ろうよ!」
その時、昴がこちらに向かって手を振った。
三人組の女性観光客は驚いた様子でこちらに視線を向け、コソコソと何やら話している。
言っている事は、だいたい予想できる。
(すいません、こんなおっさんと来てます)
心の中で謝罪した。
「そろそろ出るぞ」
腕時計に目を落とし、時間を確認する。
「うん」
自分に駆け寄って来る昴に、無意識に手を差し出していた。昴の動きが一瞬止まり、その差し出された手の意味を理解しようとしている。
松木はハッとし、差し出した手をどうしようか悩んだが、昴は嬉しそうに松木の手を握ってきた。
ここにいる人に見られたところで、もう会う事もない、そう半ば強引に自分を納得させ昴の手を取った。
男女のカップルを見ていた昴が手を繋いでいる事を羨ましいと思ったのならば、少しでも叶えてやりたいと思った。その相手が自分でいいのか疑問ではあったが。
車を止めてある駐車場で一旦手を離すも、車内に乗り込むと、どちらともなく二人は手を繋いだ。その後も車内では、二人は手を繋ぐのが決まり事のように互いの手を離そうとはしなかった。
お昼に巨大ハンバーガーを堪能し、牧場に行ってソフトクリームを食べた。時刻も夕方に差し掛かり、渋滞する前にこちらを出ようと松木は考えていた。
「そう言えば、まっつん実家に顔出さなくていいの?」
N市の一番大きい道の駅に寄り、昴は今日何個目か分からないソフトクリームを向かいに座って頬張っている。
「今日はいいよ、まぁ、GWにでも帰るさ」
その時、
「大地?」
自分の名を呼ばれ、振り向く。見覚えのあるその顔は、中学の同級生だった、飯田ゆかりだった。
「ゆかり?」
「久しぶり! 何? こっちいるの?」
ゆかりが近付いてくるのが分かると松木は腰を上げた。
「いや、違う。ちょっと観光」
「観光ってあんた、自分の地元じゃん」
そう言って笑った。
「いや、連れのさ」
そう言って昴をチラリと見る。昴の表情は珍しく硬っているように見えた。
「弟……? っていたっけ?」
「いねーけど……」
「甥っ子、とか?」
なぜそんなに気にするのか、苛立ちを感じた。年の差は歴然だ。それでも友達と言えばいいのか、そう言って彼女は信じるのか、妙な勘ぐりをされるのが目に見えた。
「こんにちはー。こう見えて俺たち友達なんですよ」
「そうなんだあ! こんな若くてかわいい友達なんてうらやまなんだけど」
ゆかりは昴の答えに意外にもあっさり受け入れ、松木は逆に面食らった。
「おっさんに誑かされないようにね」
昴はゆかりの言葉に口を継ぐんでいる。ゆかりはそんな昴に気付かない様子で尚も話しかけてきた。
「おまえの連れは? 待ってんじゃねえの?」
「あ、忘れてた。今度同窓会やる時は来なよ! じゃあね!」
そう言って嵐のように散々喋り倒し、彼女は去っていった。
「ーー悪い」
「……元カノ、とか?」
「違うから! 中学の同級生だよ」
「ふーん……下の名前で呼び合ってたから」
「俺らの中学は1クラスしかなくて、人数も少なかったし兄弟みたいなもんだったから、皆んな下の名前で呼び合ってたんだよ」
「じゃあ……俺も下の名前で呼ぼうかな?」
「あ?」
昴の顔が近付いてきたかと思うと、
「大地さん」
小首を傾げ、そう可愛らしく松木の名前を呼んだ。
心臓を鷲掴みされたように、胸がギュッっとなる。
(こ、これは……)
その破壊力は今日一番であった。
動揺を隠す為、一つ息は吐く。
「そういう事は、こういうのを付けながら言われても説得力ありません」
昴の口元には、先程まで食べていたソフトクリームのコーンの食べカスが付いているのが目に入り、松木はそれを親指で拭った。途端、昴は顔を真っ赤にさせている。
(子供だねえ)
そんな子供に何度も翻弄されている自分の事は棚上げだ。
「さて、行くか」
大きく一つ伸びをし、もう一度時計を見た。四時になろうとしていた。
「お腹すいた」
昴はそうポツリと呟き、腹をさすっている。
「あんだけ食って、もう腹減ったのかよ」
「食べ盛りですから!」
そうドヤ顔を向けられた。
少し遠回りにはなるが、食べ放題の焼肉屋に寄ることにした。ドヤ顔をキメることだけあり、目の前の肉はどんどんと消えて行く。
(よお食うな……)
呆れながらも、その食いっぷりの良さは見ていて気持ちがいい。
きっと、昴はもっと成長していくはずだ。今はまだ成長期の途中で伸び悩んでいる身長も付きにくいと悩んでいる筋肉も、これからまだまだ発達していくのだろう。
「あー腹いっぱい! ご馳走さまでした!」
「満足して頂けて何よりです」
車内に乗り込み、エンジンをかけそして、自然に互いの手を取った。
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